白い小悪魔


あれから一ヶ月、男女共にうきうき空気を出しているのが嫌でもわかる。
バレンタインはドキドキ感が張りつめていたけど、今日は「お返しする日」ということで、自分が該当するかどうか大方わかっているので緊張感がないのだ。
私は普通に友達にお返しをし、違う子にはバレンタインのお返しをもらい、それで終わった。当然男子にはあげてない。
なのに。



「私あげてないのに」
「いいから、俺があげたかっただけ」

目の前には幸村精市。
私曰く悪魔の子。いや、もう『子』なんて可愛いものを付けてはいけない気がする。
この三年間、不運にも私一人がこいつと同じクラスの運命を辿って、地味に陰湿ないじめを受けてきた。……まあ、長い間入院してたからそうでもないんだけど。
運動音痴な私をドジだと笑い、修学旅行は違う場所に行ったのだが気持ち悪いキーホルダーを押し付けてきた。私の嫌がる顔が好きらしい。まさに悪魔だ。

これまた押し付けられた箱を見ると、水玉模様の綺麗なパッケージ。とりあえず、市販だから毒が入っていることはないだろう。

「クッキーだよ。無難でインパクトに足りないけど、まあ大事なのは気持ちだよね」
そこで一ヶ月前の会話を思い出す。
『俺にはくれないの?』
校内で一番チョコを貰っているような奴にわざわざあげる必要はない。義理だろうと友チョコだろうと用意するのはそれなりに面倒なのだ。



「でも、アンタ自分にチョコくれた人には全員お返ししたんでしょ?」
市販だろうと用意するのが大変なのは男だって同じだ。ましてやファンはうるさく、公平感を出すため安すぎても高すぎてもいけない。ちなみに今私の手元にあるのは、とても安物とは思えないしっかりしたものだ。
「知ってたんだ、妬いた?」
「ばか、全員の顔覚えてるなんて器用ねって思っただけ」
「お返ししてたって知ってるんなら気付いてると思うけど、」

言うんじゃなかった。何もかも知らないふりをして、やり過ごせばよかった。




「これだけは他のと違うやつなんだ」

今年の卒業式は三月十七日。

「なんで後三日しかないのよ……」
あと三日で、こいつの嫌味を聞くことはなくなる。それは幸福のはずなのに、妙に名残惜しい。
「大丈夫、高校三年間があるだろ」
「あら、その後は?」

「ごめん、俺としたことが。ずっと一緒にいられるから、中学の残り三日は楽しくかつ存分に味わおう」
「アンタ、ばかね」

誰も一緒にいたいとまでは言ってないわよ。
でも、まあ、来年はチョコ用意してあげなくもないかな。わさび入りで良ければ。



END
20120314


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