漂流の先


自分の苗字が変わるって、昔はただ好きな人と同じになれて嬉しいくらいにしか思っていなかった。今もその気持ちに変わりはないけど、それと半分面倒くさく感じているのも事実だ。というより、苗字の変化より彼そのものに問題があるのだが。



「ねぇ、いい加減外出許可なしに散歩くらい行かせてよ」
一番の問題は外出。学生時代の友達とランチに行ったりショッピングしたり遊びたいのに、移動は車を出すだの門限は何時だのまるで溺愛する一人娘を扱う駄目親父のように束縛するのだ。毎日のように抗議すると、毎日のように返ってくる答えは同じ。

「駄目だ。お前に何かあったら気が気じゃねえ」
「でも、景吾が仕事でいないとき、私つまらないよ」

女友達だと証明出来ればどうにか遊びには行かせてくれるけど、一人でも男が混じっていたら大問題。氷帝時代のメンバーなら自分がついていくか、それが無理なら私の外出も無理になる。別に男と二人で会うわけではなく、小学校の同窓会を許してくれなかったときはわんわん泣いた。そのときは圭吾もそれなりに参っていたけど、次の日になって規制が緩むことはなかった。
ただ、これで拗ねられては敵わないと考えたのか、景吾は意味ありげに言う。
「はぁ、仕方ねえな。紫帆、来いよ、面白いもん見せてやる」
そんなんじゃ私を釣れないわ。脳内で再生準備を行う。


それは、

「ほらよ」

ちょっと飴でべたついた、

「まだ取ってあるの?!」





あのメッセージボトルだった。

「当たり前だろうが。紫帆から貰った熱烈ラブレターだからよ」
「ただのメッセージボトルよ!」
本当に、元々は異国の友達が欲しくて書いただけ。夢見る小学生の期待を込めた手紙を海に流したところ、まさか日本人が……まあ拾ったのはハワイらしいが、しかもこんなイケメンが、さらにはヘリコプターで「会いにきてやったぜ」なんて来るなんて思わなかった。小二の時の自分が怖い。
景吾はそのあともこの珍しい出会いを気に入ったようでちょくちょく会いに来てくれて……というか、日本の彼の家は私の家とかなり近くて。

これを運命と呼ばずになんと呼ぶかと叫ばんばかりに大学卒業直後にスピード結婚したのだ。



「アーン? もしかして紫帆、今俺を馬鹿にしたのか?」
「そ、そんなわけないよ!」
なんで景吾には私の考えが丸わかりなんだろう。こうやって焦るのが悪いんだろうか。

まあ、他にも驚いたことに彼に拾った瓶を懐かしくて見せてもらうと、カラフルだしテープだらけだし、雨とか紙屑が入っていて焦った。何より手紙に英語やらが書き足されていた。しかもなんとこれ、景吾自身が一度拾ったときに書いたものらしい。今、英語教養の身についた私が読むと何とも上から目線で書かれてあり、むしろ彼以外に拾われなくて心底助かった。
何より、二度も景吾が拾うなんて、なんて偶然があるのだろう。

「景吾が大好きって言ったの!」
はじめは何もかも照れ臭かったことなのに、相手のあまりの大胆さに日に日にこっちもオープンになっていった。
「ハッ、言うようになったじゃねえか。だがまだまだだな」
「えー、何でよ」
「俺はお前を愛しているからな」

でもやっぱり、景吾には敵わない。


END
公式アニメのストーリーが好きで書いてしまいました。
20120304


- 66 -



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -