内心動揺


「麻倉さん、おはよう」
「おはよー」

声は裏返らないだろうかとか、返してくれなかったどうしようだとか、挨拶一つでこの始末。コート上の詐欺師でも、恋の舞台では素人当然。

紫帆は生粋の文系で、彼女は朗読が上手でよく授業中に当てられていた。その声を聞くと心地よくて、国語だけは絶対に寝ないと決めている。
紫帆はいっつも朝すんなりと席につくと、窓を少しぽーっと見ると、分厚い本を読み始める。本当に本が好きなんだなぁ。いじめだとか友達がいないわけではなく、クラスでは頼れるお姉さん位置だ。よく友達の相談にのっている姿を目にしているし。
そんな紫帆が今日は読書を始めず筆箱類を取り出すと。





「仁王君」
名前を呼ばれただけでビクッとなってしまった。格好悪い……
だって、まさか朝から呼ばれるなんて。
「数学得意だったよね、この問題わかる?」

それは今日提出の宿題。
「間違ってるなりにも他の問題は解いてきたけど、どうしてもここだけは手づかずで……」

俺だったら一問くらい、いや気分によっては真っ白のまま提出する。
これでわからなかったら格好悪い、けど運よくそこは知っていた。珍しく昨日宿題やってて良かった。



「俺が数学得意って、何で知っとんの?」
それに、なんなら友達に聞けばいいのに、なんで俺。そんなわけないのについつい期待してしまう。

「だってこの前、丸井君に『ブンちゃんは数学苦手やけんのぉ、何なら教えちゃろうか?』って言ってたから、優しいなあって思って」

本当はそのあとブン太にジュースを奢らせた。あの場で言わなくて良かったと心底思う。心が狭い人のレッテルを貼られるところじゃった。



「仁王君って大人だよね」
「え、な、なんで?」
何故か動揺。紫帆の方がよほど落ち着いている。
「噂? 人の扱い方が上手いというか」
「ごめん、変な言い方だったね。だからこの前、部員の人と仲良さそうに話してて、ああ、友達思いのカッコイイ人なんだなぁ、て。
何となく距離置かれてた感触がしたけど、よければ仲良くしてね?」
「も、勿論じゃ」




(ブンちゃん、林檎飴いらんか?)
(え、そりゃ欲しいけど……お前からくれるなんて、毒でも入ってんの?)

END
たまには女の子がリード。
20120223


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