気持ちを察する


「竜崎、ちょっと良いか」

私はその声にビクリと肩を震わせた。だって、男子テニス部部長が女子テニス部のレギュラーでもない私に話しかけるなんてこと、有り得ない。
しかも一対一なんて……正直怖くて仕方がなかったが、断る理由もなく大丈夫ですと小さく返す。

「その、全く脈絡のない話で申し訳ないのだが……」
言いにくい話なのか、珍しく渋る部長。眼鏡をカチャリとかけなおし、コホンと一つ咳ばらい。



「女子のパーマとは、美容院でどれほど時間がかかるものなのか」
それは、私が想像したいかなる質問とも違った。



てっきりおばあちゃんかリョーマ君、少なくとも一年生についてかと思ったのに。
戸惑いながらも上手いジョークを知らない私は、正直に答える。

「えっと、少なくとも一時間、長くて三時間でもおかしくはありませんけど……」
「そうか…………いきなりすまなかった」




何となくわかった。

友達の紫帆は手塚部長と付き合っている。紫帆は月曜日学校にくるとストパーを当てていた。
彼氏が出来るとお洒落に身が入るのは女の子として当然。そして叶うなら、こちらから言わなくても気付いて「可愛いね」って褒めてもらいたいもの。
けど、手塚部長の性格を知っている人ならそれがどれだけ困難なことかは分かる。
乙女心と部長の気持ち、紫帆がどのように天秤をかけたかは分からないが、悲しそうに「怒られちゃった」と言っていた。
ストパーをあてること自体は校則で禁止されてはいない。何がダメだったのか今まで分からなかったが。

(もしかして部長、紫帆ちゃんがどこかに黙って遊びに行ったと思ってたのかも)

どんなに美容院にいたといっても、男子のペースだと一時間以上かかるのはおかしい。そこで黙ってるということは、疚しいこと、つまり他の男子と遊んだと誤解したのかも知れない。
それはつまり、部長が嫉妬をしたということで。

(きゃー、きゃー!)


普段からは想像もつかない感情に、私は紫帆ちゃんがちょっぴり羨ましくなった。



END
桜乃視点
20120215


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