お菓子の家


「ブンちゃん! 起きて起きて!」
「何だようっせーなぁ……」
「家が大変なことになってるの!!」

うるさいな、眠気から目を閉じたままシーツを手繰りよせようとし、先に鼻が利いた。食べ物察知能力に関してブン太の右に出る者はそういまい。

どこからか甘い匂いが充満しているではないか。

そして次にシーツの手触りがおかしい。いつもより柔らかいというか脆い。
何があるのか、食い意地を張ったブン太はガバッと起き上がり横にいた紫帆は少々驚く。
だがそれ以上に驚くべきことは。



家具という家具がお菓子で出来ていることだった。

「マジかよ……」
手繰りよせたシーツは真っ白なマシュマロで出来ている。
思わずかじると口の中にふんわり雪解けを思わせる感触が広がった。どうやら食べられるらしい。

「やだ、この椅子チョコレートなの?」
不安そうにベッドから起き上がった紫帆は、お気に入りの椅子がチョコレートになっていることにショックを受けたようだ。


軽く青ざめた紫帆と、早速まわりのチョコレートを食べ出すブン太。
「どうするの……?」
「全部食べるしかないだろぃ!
ほら、お前も。結構美味いから食ってみろって」
「そんな、家がなくなっちゃう!!」
常識が頭から離れない紫帆はしばらく渋っていたが、ブン太が美味しそうにチョコ時計を食べ終えたのを見て、戸惑いながらもクッションケーキに手を伸ばしたのだった…………。






***





「……ンちゃん、ブンちゃん! 起きて起きて!!」
「壁美味え……」
「ブンちゃんってば!」
乱暴に揺さぶられ、せっかくの幸せなお菓子たちがポンポンッと消えていく。

「ん〜……何だよ良いところだってのに」
同棲している紫帆に起こされ、渋々目を開ける。辺りを見渡しても見慣れた風景で、お菓子はどこにもない。普段紫帆に優しいブン太も、この時ばかりはじとりと睨んだ。それに臆さず紫帆はどこか嬉々としてこう告げた。

「私今日、お菓子の家の夢を見たの」
「奇遇じゃん、俺も。シーツはマシュマロだったな」
「やっぱり、同じ夢見てたんだ」

やっぱり、とはどういうことか。だが別に気にしないことにした。同じ夢を見ることなど、中々にロマンティックではないか。



「じゃあ夢でたらふく食べたしバレンタインチョコはいらないね」

そう、今日はバレンタイン。中学生時代は女子という女子から貰っていたが、成人した今では紫帆くらいしか貰えない。だからノーマークだった。だがそれでも構わないと思える幸せがここにはある。

貰えないのかと焦って起き上がれば、クスリと笑いながらも綺麗な箱を渡され、寝起きだろうと食べ物に貪りつく。
紫帆の手作りチョコレートは、お菓子の家より甘かった。


END

初ブン太夢
20120214


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