雪兎


なんで銀に染めてるんだろう?

規律に厳しい真田は特に、当初仁王がテニス部に入ること自体嫌がっていた。まあそのときは真田も一年生だったから、当時の三年が彼のイリュージョンを認めてから部内では問題なかった。




――僕ヲ見ツケテ




仁王はいつも一人でいる。皆の斜め上を行く。皆の円の、少し外れにどことなく座る。
一人が好きなのかと思えば、部活のメンバーと話すのは楽しそうだ。シャイなだけだろうか?
そんな彼だから女遊びはしそうにもなく、しかし告白を丁重に断るところからそこまで話術に自信がないわけでもあるまい。

自分に自信があるのかないのか、所詮ただのクラスメイトの私にはわからない。

ただ、時々仁王からは電波のような、心の声が鳴っている気がするのだ。
それはまた、見つけてほしいから髪を白くしてるんだと言っているようでもあるし、普通の他人と同じにされたくないという個性の塊にも見えた。




***




「柳生君、次の数学のプリントなんだけど」
先生に頼まれてクラス全員の宿題を回収している私。先生が授業中に集め忘れ、今昼休みなもんだから後ろの席から回してもらうのは難しく、一人ひとり聞きまわっている。

「でしたら、私が預かっておきますよ」
貴女一人では大変でしょう。そう言ってプリントを受け取ろうと手を差し出す。
丁寧で優しくて、確かに柳生君なのに、違和感。

「………………仁王君?」

まるで独り言のように、口から音が零れる。
それを聞き漏らすことなく、柳生君は目を丸くして、そして笑った。




「……よう分かったのぅ」
「いつもより、声が低めだったから」
あと、いくら両利きに鍛えているとはいえ、元々右利きの柳生が左手を自然に出せるだろうか。
「そんなことで……よっぽど柳生のこと観察しておるようじゃな」
仁王は私の弱みでも握ったかのようにニヤニヤ笑う。

「ううん。仁王君の声に似てるな、って思って」
「え?」

私は別に、本当のことを言っただけだ。しかし仁王は目を丸く見開いて、詐欺師なのにそこまで表情に出して大丈夫なのかなと考える。まあ、試合じゃないんだし問題ないだろう。彼だって人間なのだ。
仁王はもしかして、凄く淋しがり屋なのかもしれない。
一人じゃ淋しくて死んでしまう、白い兎のように。


「仁王君、寒いの嫌いなのに雪は好きそう」
「別に子供じゃなか」
白ウサギを連想し、白から雪に飛んだ私の話を突っ込むことなく仁王は答える。
「ごめん。その、イメージに合うなって」
「俺のイメージってどんなん?」



「静かで、でもはしゃぐ空気は嫌いじゃなくて、一人でなんでもこなすけど、自立は難しくて、かっこいいけど可愛い面があって」
「さっきから正反対なことばかり述べちょるのう」
「だって、仁王君は、」



そういう人なんでしょう?



イリュージョンで人を欺き、上手くなりたいと願う内に自分自身が麻痺してきて、それでも誰に助けを求めることもない。
たまに柳生には甘えるみたいだけど、それにも限度はある。

「もっと私を頼ってよ」

所詮私はただのクラスメイト。でも私は貴方の力になりたい。
貴方が好き、そう言えない自分こそ、髪を白く染めるべきだろうか。



――私ヲ見ツケテ


そう信号を発すれば、彼は私を見つけてくれるだろうか。
目の前にいるのに伝わらない、ただのクラスメイトであることはひどく苦痛で、それでも時は無情に午後の始業ベルを鳴らした。


END


仁王ならきっと見つけてくれる。
20120204


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