間接対話


立海の屋上はいつも鍵がかかっていた。
恐らく新入生で興味がある者は皆、入学の4月ごろに一度はその門を叩くのだろう。そして一ヶ月も続ければ流石にそこが開くことがないと諦めきれる。
だから何故、空からファーストフードのような濃い匂いが立ち込めているのか。

昼休憩中に職員室へプリントを提出した帰り、一瞬教師が食べているのかと思ったが、どう考えても匂いは上から降ってくる。上といえば屋上しかない。
私も元々は屋上に行ってみたかったクチで、もしかしたらと興味半分で階段をあがる。使用されないそこは埃まみれで寂れていた。



なぜ、扉が開いていたのか。それは未だにわからない。
結果だけ言うと、確かにそこは鍵が開いていて、教師ではなく銀髪の少年がだるそうに座っていた。


彼の目の前には、ピザ。

「それ、昼ご飯?」
よく私も声をかけられたものだ。不良に絡まれたら面倒くさいが、どうも少年はその手の者ではない気がした。声をだすのが億劫なのか、少年はこくりと頷く。
不思議だ。こんな髪色なら学校で話題になりそうなのに、意識的に気配を消しているのか少なくとも私は初対面だ。

少年が一欠けらを手に取ると、チーズが本体からスーッと伸びる。首を傾け、「食う?」と言いたげだ。

「うん、もらう」

初対面の私は、内心とても動揺していた。しかし見た目は堂々と、当たり前かのようにそれを受け取る。

そして他にすることがなく、黙って口を動かす二人。
「美味しい」
これは本心だ。




「いつも弁当こんななの?」
だから教室で食べないの? この質問はチーズと共に喉に押し込む。何となく違うのは、彼の出すオーラで読み取れたからである。


「いつもじゃなか。でも先週は焼肉セットやった」
「まじか」

ようやく答えてくれた彼の声は、思ったより方言混じりで思ったより低くなかった。私もついいつものノリに戻ってしまったが、気分を害した風もないので無駄に距離を取った対応はこちらもやめよう。
どうやら週に一度あるかないかでとんでもランチを食しているらしい。最初はマクドナルド辺りから始まったのかなぁとぼんやり考える。
頭上では、天気がいいものの大きな綿雲がふよふよ浮いていた。





「これ、お礼」

少年の口数が少ないからか、自然と私も短くなる。おしゃべりな訳ではないが、普段はお世辞くらい言える話術は持つ。

そういえば私はプリントを提出したら隣のクラスの友人と食べる約束をしてたっけ。でもいいや、あとできちんと謝ろう。それくらい少年は魅力的だった。
私は右手で箸を伝い、お気に入りの唐揚げを渡す。本当はあげるのが勿体ないくらいだが、ピザの代償はこれくらいあるしまずいものをあげても仕方がない。
多分少年は、とんでもランチ以外の日は購買のパンを一切れで済ましていそうだ。勝手にそう思った。それくらい細くて白かった。

箸の重量は中々消えず、何事か、まさか唐揚げが嫌いなのかと思ったら、そうかピザだから箸がないのか。
浮いた右手、持ち上げられた唐揚げ。
今更自分の胃に入れる訳にも行かず、軽く困惑していると。




(ぱくり)



「うん、美味か」

もぐもぐと口を動かし、一瞬の内に唐揚げはこの世から消え去り、男の糧となった。
知らずのうちに所謂あーん体験を済まし、それでも顔色一つ変えずに空を見られる少年は凄い。



「あの、名前は?」
彼から教えてもらった名前を、私は一生忘れることができないだろう。

END
20120201


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