幸せへの距離感


「ほれ、次はこれじゃ」
「えー……まだやるの?」



今私は仁王の買い物に付き合っている。「明日の午後空いとらんかの?」と声をかけられ、前々から仁王のイリュージョンに興味があった私は一つでも謎解きがしたくてついてきたのだ。
確かに、仁王がどこで変装グッズを買っているのかは判明した。まさかこんなショッピングモールにパーティーグッズが沢山置いてあるとは。

そこまでは良い。問題はここからだ。
「よう似合っとうよ、そのミニスカサンタ」

仁王にどんどんどんどんコスプレの服を持って来られ、着ては脱いでの繰り返しの私。ショッピングは好きだけど、一時間以上この作業を続けるのは流石に骨が折れる。




「仁王ー、ちょっと休憩しようよ」
「しょうがないのぅ。じゃあ別の階にカフェがあるから入るナリ」
あれ、意外と簡単に解放された。

「て、え、それ買うの?」

仁王は先程私が着せられた女性用サンタの衣装を持ちレジに向かっている。

「だって紫帆に似合っとったし」
「いや私いらないから!」

何だその究極の無駄遣いは。
「それを買うくらいならまだカフェで奢ってくれた方が嬉しいよ……あ、奢れって言ってるんじゃなくてそれを買うなっていう意味よ?」
それからしばらく押し問答をしたのに、渋々折れたのは仁王だった。







「ふぅ……」
カフェは時間帯が良かったのかすんなりと入れた。紅茶を飲むとようやくひと段落したような気がした。そこで気が付いたのだが、周りを見渡すとなんとまあカップルが多いことか。冬は人肌が恋しくなるけれど、ここまで幸せオーラが充満しているとこっちはちょっと息苦しい。何故なら私達はそういう関係では決してないからだ。
傍から見たら、私達もそう見られてるのかな……でも私達は手を繋ぐようなことはなく、微かな距離感が大きな壁となって目に見えている。
それに、仁王は私とは違って美形だし学校でも人気だし、もしも立海の生徒に見られてて誤解されたら申し訳ない。



「なんじゃ、つまらんかったんか……?」
「ううん、そんな訳ないよ! ただ人ごみにちょっと疲れちゃって」

私の表情を敏感に読み取ったのか、少し淋しそうに笑う仁王。そんなつもりは毛頭なく私は強く否定する。
でも、仁王はどういう気持ちで私を誘ったんだろう。レギュラーで遊びに行ったことはあるけど、二人ででかけたことは今までない。聞いてみても「日曜が暇だったから」としか言わなかった。






その後はいつの間にか私の買い物が優先されてて、服やバッグを自由に見させてもらった。仁王はセンス良いな。というか私と好みが近いのかも知れない。

「ごめんね、いつの間にか買い物に夢中になっちゃって」
「最初は俺に付き合ってもらったけん、元々あん後は紫帆に合わせるつもりじゃった。だから問題はなしじゃ」
「良かったー。私男の人と二人ででかけたことなかったから変なことしてないか心配で…………あ」


なんか今私、変なこと口走ったりしてないだろうか。買い物なんかやっぱり男の人はつまらないだけなんじゃなかったのかな。仁王はちょっと目を丸めたけど、すぐにまた悪戯っぽい笑顔を見せてくれた。うぅ、優しいなぁ。
「駅まで送るぜよ」
「そんなことしなくていいのに」
仁王とは家の方向が丸っきり違うから、一緒に帰ることはできないし、そこまで迷惑かけたくない。けれど「いいから、俺の好きにさせんしゃい」と先に歩かれては付いていく形を取るしかなかった。







「仁王、どうしたの?
今日何か変よ」

私の知っている仁王は、いつも他の人より一枚も二枚も上手で、優しいというよりは余裕がある感じで。プラットホームに到着すると、丁度電車も来るようで。仁王はちょっと黙っていたが、電車が見えるとぽつりと話し出した。ああもうこんな時に電車が早いなんて。いつもはラッキーだなんて思うけど、今日ばかりはタイミングが悪い。



「今日な、」

『白線から下がってお待ち下さい』なんてお決まりのアナウンスが流れる。

「俺の誕生日やったんよ、」

ドアが開いて一斉に人が乗り降りしてた。

「だから、紫帆と一緒に居たかっただけじゃ」

ほら、私も乗らないと。







「ばか、それならもっと早く言ってくれたら良かったのに」

『ドアが閉まります、ご注意下さい』
「…………紫帆、電車が」

「いいの。私ももっと仁王といたいから」

私が乗るはずだった電車はあっという間に出発した。私はというと仁王の胸の中。こんなことしたことないけど、何となく、無性に愛おしくなって気付いたら飛び込んでいた。慌てながらもしっかりと受け止めてくれた仁王。



プレゼントも何も用意してない。でもこれだけは言いたいの。
「お誕生日おめでとう」



END
20111204


- 21 -



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -