新婚な私達は共働きで、今日は夫の方が遅いから料理当番は私。今度雅治が作った炒飯が食べたいなぁと考えながら、当然閉まっている家の鍵を開け、荷物を置こうとリビングに向かう。
現在19時、夏なら明るいこの時間、冬につき真っ暗で何も見えない。明かり明かり、と慣れた手つきでボタンを探っていた、そのとき。
ガタンッ
固いものが落ちる音。
思わずびくつく。猫も犬も買ってはいない。まあ、ただの偶然だろう、
バタバタッ
間髪入れずに二、三冊の本らしきものが落ちた。
「………………」
少し気味が悪くなり、急いで電気を付けるがそこには当然何もいない。
ここは残念ながら新築ではない。マイホームの夢はお金を貯めてからで遅くないし。
だから、もしかして。
お化けが出たりして……?
なんてあるわけないよね。雅治がいつ帰ってもいいように、早速ご飯を作ろうとキッチンへ移動する。気を紛らわすように鼻歌なんて歌いながら。それは自分のキャラでないことに自分で気づかない。
あと3歩でキッチンにつく。手を伸ばして明かりを探す。しかしその手はスイッチを見つけることなく何かにガシッと掴まれた。
「きゃっ……!」
手を掴かまれ、口を覆われる。息を呑む。泥棒か。それとも。
私は強く目を閉じた。
「びびりすぎナリ。可愛えのぉ」
「まさはる?!」
その声は、私のよく知る耳に心地よいもので。
泥棒でもお化けでもない正体に全身の力が抜けた。それを飄々と支える雅治。近い顔が憎たらしい。
「もう! 泥棒かと思ってびっくりしたじゃない!!
さてはあの物音も貴方の仕業ね!」
「だって俺ペテン師じゃし?」
「そういう言い訳はいりません!」
「そうツンケンしなさんなって。つい、魔が差してしまってのぉ。
お詫びにお前さんの好きなシュークリーム買ってきたけん、許してくんしゃい」
「もう…………」
流石は夫婦、どうすれば機嫌が直るかは知り尽くしている。
「許したわけじゃあないからね」
そう言いながらも二個目のスイーツを差し出され、結局許してしまうのかと、自分の食い意地の悪さに感服した。
END
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