先生は僕のもの
ここは庭球幼稚園。
今年から晴れて保育士になった私には、ここが人生初めての仕事場。
やんちゃだけど皆良い子で、やり甲斐のある日々を送っていたのだが。
最近は特にとある三人に気に入られていた。
「紫帆せんせー」
かまえかまえ! というように目で見えるほど尻尾を振るのは跡部景吾君。
「何して遊ぶ?」
「おれキング! 紫帆はプリンセスだからおれがエスコートしてやるよ!」
景吾君のお家は相当なお金もちで、言葉も英語混じりだったりする。どんな教育を受けてるんだろ……
景吾君が手を差し出してくれたので、どこかに連れていってくれるのかと思い、手をとろうとしたのだが。
「あとべ! せんせーをよびすてとは 何事だ!」
私をよく慕ってくれる二人目の男の子が叫びながら走ってきた。
「あら弦君、その手に持っているものはなあに?」
「きのう、おじいさまとしょどうをしたのだ!」
「もう平仮名書けるんだ。すごいね!」
弦君はとてもしっかりしていて、この子はこの子で大人っぽい。もしかして近頃の教育はこういうのが当然なんだろうか。
まだ仕事をはじめて一年未満、驚かされることばかりだ。
「あれ、国光君どうしたの?」
「…………」
私をよく慕ってくれる三人目の子は手塚国光君。ちょっとおっとりしている、というよりシャイな子で、自分から中々来てくれないが、一日何時間かはべったり甘えてくれるかわいい子。三人の中で一番幼児らしいかもしれない。
「おい てづかぁ! 紫帆はおれと あそぶんだから はなれな!」
「なにを! せんせいは おれとあそぶのだ!」
「ちょっと、三人で仲良く遊ぼうよ。ね?」
「でもおれ紫帆がいいー」
「せんせいは だれといたいのだ?」
なんだろう、この人生初モテ期は。とっても可愛くて誰も選べないし、保育士たるものできるだけ公平に接しないといけない。
国光君は確かに大人しいけど、それにしてもここまで喋らない子ではなく、意見はきちんと言えるはずだ。
「国光君、もしかしてどこか痛いの?!」
元々白い肌だが少し青い気がする。
「…………ちょっとさむい、です」
そういえば少しクーラーが効き過ぎてるかも。
「大変! ごめんね気付いてあげられなくて、すぐ弱めてくるから」
「へ、こんなことで へこたれるなんて よわっちーな」
「たるんどる!」
「こら、二人共駄目でしょ!
国光君こっちにおいで」
ぎゅっと抱きしめる。良かった、そこまで体温が下がった感じはない。しばらくは様子見だ。
そんな私達をじーっと見つめてくる二人。
「おれもだっこしろ!」
「なぬ、おれがさきだ!!」
「ごめんね、また後でね?」
国光君を一応ベッドに寝かせないと。何かあってからでは遅い。
「「てづかー!!」」
ベッドで国光君を休ませていると、二人が声を揃えて勢いよく入ってきた。
「おれさまじきじきに はなを つんできてやったぜ」
「おれもいっしょにやってきたのだぞ!」
本当、いつもは三人で喧嘩して、一緒に遊ぶなんて早々ないのに。大事なときは、助け合う良い友達。
「二人とも、ありがとう」
皆優しくて、大好きなこどもたち。
END
この三人が好きすぎる。
20110927
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