キングとジャンク


「忍足ー、一緒にマック行こうよ。月見のが食べたい」
「はぁ…………何でよりによって俺を誘うんや。俺のこと嫌いなんか?」
「え、何でそうなるの?! 友達だから誘ってるのに嫌いなわけないって!」

誘った第一声が溜め息とか嫌な男!

「……俺に死んで欲しくないんやったら、大人しく跡部誘っとき」
そう、紫帆と二人でマックに行こうものなら跡部にネチネチと何を言われるか分かったもんじゃない。跡部は紫帆を明らかに狙っている。それに気付いてないのは鈍い紫帆当人くらいだろう。



「いや、跡部はないっしょ。それならまだ日吉っち誘うし」
「何でそうなるんや……日吉が可哀相やろ」
「何で私が誘うと日吉っちが可哀相になるのよ!
……だって跡部金持ちでしょ? ファーストフードなんか食べるわけないって!」
「いいから、頼むから跡部を誘ってみい。飴ちゃんあげるから」
「いらないよ!」
そういう発言変態っぽくなるからやめた方がいいよ。そう言い返すと忍足のメガネが悲しく光った。














「あ、跡部」
その後忍足の変態発言に負け、何故か跡部を誘うことになった。なら一人で食べた方がましだったかも。なんか生徒会室って緊張するんだよなぁ。

「紫帆? どうした、珍しいじゃねえかお前がこんなところまで来るなんてよ」
跡部は至って普通の対応を取る。特に愛想笑いの一つも浮かべないのが跡部という男。ますます言いずらい。
「いや、不本意というか飴ちゃん変態のせいというか……
もう! 私とマックに行く訳無いじゃんお坊ちゃまが!!」

恥かかせやがって、後で忍足絞めてやる。跡部とジャンクフードなんて首をはねられても仕方がないよ。
途中で本音が出てしまった私を見て、跡部は目を丸くしていた。あーあ。

「紫帆、本当か……?」
「はい? どの部分が?」
強いていうなら全部です。

「ま、まあ、お前がどうしてもって言うんなら一緒に行ってやらなくもねえぜ」
「え、そんな嫌々なら行かなくて大丈夫だよ?」
「良いから行くんだよ、絶対予定変えんなよ? いいな」

捲し立てる跡部には謎の気迫があり、私は、はい、としか言えなかった。





















「よお、待たせたな」
「いや、待たせたっていうか……」

跡部様は私の自宅まで迎えに来てくださいました。とっても長い真っ黒な車で。
近所のおばちゃんがジロジロ見てる! やめて見ないで!! これ私のせいじゃないんです!

「こ、これで行くつもり?!」
「アーン? 文句あんのか。別に電車が良いってんなら合わすけどよ」
「お願いですからそうしていただけると嬉しいです」
「ち、我がままプリンセスだぜ」

跡部が一言言うとさっさと車は引きあげていった。こんなに振り回されても文句を言わないお付の皆さんに尊敬する。そして私は今日一日大丈夫なんだろうか……。













その後、電車に乗るとき文句ばかり言われたらどうしようかと思ったが、なんと何度か電車に乗ったことはあるということで、座れなくても怒鳴られなくて正直助かった。跡部って意外にセレブリティなとこ自慢しないよね。
ということで、問題なく目的地に到達。

「ナイフとフォークはどこだ、とか言わないんだ」
「当然だろ。西洋にだってファーストフードはあるしな」
そうか、なんか安心した。そしてちょっぴりガッカリもした。


だが、意外なところに跡部の沸点があった。

「アーン、お前はこういう萎れたフライドポテトが好きなのか?」
「いやー、出来立てが出たらラッキーというか」
「同じ料金を払っているのに、仕打ちが違うのは解せねえな」

……何でだろう。そう話されると何かこっちが悪いみたいになる。
でもこれがファーストフードだと言ったらそうなのだ。






「……やっぱり忍足と来たら良かった」
ぼそ。言っちゃいけないのは分かっているけど、なんか、イヤ。
「…………紫帆?」



「もう帰る!」

「紫帆!」






何だこれ、何だこの気持ち、むしゃくしゃする!
思わず食べかけの月見を置いて店を飛び出すと、跡部はすぐに追いかけてきて。

「ファーストフード店ってのは便利だな、料金が前払いだからすぐに出られる」
「放しなさいよ!」
追いつかれないわけはない。






「お前、忍足のことが好きなのか?」


どんな腹の立つことを言われるのかと思えば、跡部は似合わない辛そうな表情を浮かべてて。





「…………別に。忍足は話しかけやすいからよく頼ってるけど」
「頼るのはいいが話しやすいってのは嘘だろ」
「まあ見た目クールだけど慣れたら優しいじゃん。跡部だって知ってるくせに」

「…………お前は、俺様が好きだから誘ったんじゃねえのか……?」




「え…………………………………………………………………………何で分かったの?」


「は?」
「え、嘘誰にも言ってないのに! 隠してたのに!! ばれたくないし、だから跡部誘いたくなかったのに忍足の馬鹿!」


もう訳わかんない! 跡部のバカ!!!



「おい、落ち着け紫帆。お前は俺様が好きなのに誘いたくなかったのか?」
「だって跡部は皆の憧れじゃん! 私なんかが太刀打ち出来るわけないじゃん!!」




「好きじゃねえと二人きりで来ねえよ! 好きな奴の好きなもん知りたくて来たんだよ、悪いか!」



まさかのバカップルがここに生まれた。


END
マクドそこまで好きじゃないのに何故か月見だけは毎年食べなきゃって思います。氷帝メンバーがマクドというのかマックと言うのかもよく分からずに書きました、すみません。
20110922


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