飽きない身体
「お前さんずうっと空見とるのう。そんなに好きなんか」
私が一人することもなく窓から外を見ていると、いつの間にか男は帰ってきたらしく、私の頬にただいまとキスをする。ふてくされると面倒なので顔を向けておかえりと返すとふんわりとほほ笑みを返された。私の表情は今どうなっているんだろう。
「飽きないんじゃの」
空を見るの。
嘘。私はずっと前から飽きている。必要最低限のものしかないシンプルな部屋。花も絵画もない。部屋の高いところにある小窓が唯一景色が多少変化するところ。もちろん開けることはできない。でもそれだって長閑な田舎であることしか確認できず人の動きはなくただ鳥が飛んでくるか太陽の動きしか観察できない。自然は嫌いじゃないけど、とっくの昔に飽きている。
飽きている、そういえばこの男はここから出してくれるのだろうか。
いや。紫帆は自分が一瞬でも希望を抱いたことに自嘲する。そんなことならそもそもここに閉じ込められやしない。最初は脱出を試みたけど、待っているのは痛い長いお仕置きだけ。
「お前さんはいつまで経っても飽きん……」
私の真横に顔を近づけ、頬擦りしたかと思えば慣れた手つきで下着を身にまとっていない私の体に手を這わし肌を撫でくりまわす。嫌悪感をどうにかこらえてじっと耐える。いきなり乳頭を抓まれれば漏らしたくない声を出すしかなかった。
そう、飽きていないのはこの男の方。特に美貌を持つわけでも家が金持ちでもない私を、よくも飽きずに毎日のように貪ることができるものだ。その執拗さには関心のため息がでるほどで。
「雅治……」
かつて、恋人だった男の名を呼ぶ。
相手は今でもそのつもりらしいけど。
「なんじゃ」
当時はこんなことになるなんて思ってもみなかった。元々掴めない性格ではあったけどまじめに、いや一般の学生より熱心に部活に取り組んでいたし、たまの休みのデートも遊園地だったり映画だったりとドラマや小説で見るようなごく普通のものだった。いつからこうなったんだっけ。もう忘れた。
「……なんでもない」
やめて。
言っても無駄な本心を誤魔化すように、相手の胸に顔をうずくめるとよしよしと頭を撫でられた。
甘ったるくて吐き気のする空気の部屋で、私は今日も彼のお人形になる。
20140910
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