規格外の貴方へ


今年もこの日がやってきた。
氷帝女子のビックイベント。言う必要もない、そうそれは。


「きゃー!! 跡部様、お誕生おめでとうございます!!!」

跡部様の誕生日。

もちろん私は跡部様が大好きで尊敬してて、ファンクラブの一員として応援は毎回行ったしバレンタインにはチョコを渡した。でも今日は何もしてない。他の子は去年よりすごい騒いでるけど。
見て、しまったのだ。気づいてしまったのだ。
跡部様は優しい。ただの俺様なんかじゃない、部員の皆と一緒に頑張ったり、生徒会長として私含め全国生徒の名前を覚えている。だからファンクラブの皆が名前を知っててくれてさらに喜ぶんだけど。
でも、今年のバレンタインデー。
女の子の嵐が去って、疲れ切った跡部様の顔。偶然、見てしまったのだ。
そりゃそうだ。あんなの永遠と相手にしていたら誰だって疲れる。でも渡したい女の子の気持ちもわかる。
特に誕生日なんかは友達か家で楽しく過ごしたいだろう。知らない女の子の気の済むようにする必要なんてないのだ。

「やっぱり、あんな顔自分のせいでしてほしくないな……」

ほんとは祝いたい。プレゼントを渡して一瞬でもこっちを見て欲しい。
でも、だめだ。
私はその日、騒ぎを避けて1日を過ごすことにした。



跡部様がいるところに人が集まる。私は人気のないところを探していると、案外いつもは人気の屋上ががらんとしていて、その言葉の意味を再認識した。

ぷかぷかと雲が浮かんでいるけど、空は青くて良い天気。
ふーっと肩の力を抜いて、さあこれからどうしよう、と考え出した瞬間。


カチャ、と静かに扉の開く音がした。他にも私と同じような人がいたのかな、と振り向いた瞬間を私は固まった。



嘘。あり得ない。
「ーーあっ……」
「ち、見つかったか」
何かを言う前に、跡部様は踵を返そうとする。その言葉は若干悲しかったけど、十分言いたいことはわかる。よほど疲れているのだろう。
「ごめんなさい、すぐ帰りますっ」
理由はどうあれ迷惑にだけはなりたくない。元から好かれてないけど嫌われたくもない。私は急いで降りようとした。

が、そんな私を見て跡部様はこう言う。
「おい、待て。
悪かった。ただの勘違いだ。お前のほうが先にいたのにな」
だが誰にも言うなよ。頼むから。
跡部様はそう言いながら私の目をじっと見る。声が出なくてひたすら頷いた。





「お前ここで何してんだ」
「あ、その……下の騒ぎが凄かったから」
「悪い、俺のせいだ」
「そ、そんなことないです!!」
跡部様が騒げと言ったわけではない。なんて優しいお方なの。ていうか今自分大丈夫? 緊張して溶けてない?


跡部様が隣にいる。この幸せはほんとうに一瞬だった。
「なんか、地響き聞こえますね」
階段を駆け上がる足音と、「跡部様はどこ?!」という女の子たちの声。

「どうやらこっちに向かっきているようだな。気づきやがったか。先に失礼するぜ」
「はいっ、あの、お誕生おめでとうございます!!」
急ぐ跡部様にせめて言いたかった言葉をどうにか伝えると、後ろ向きに手をふられた。どうしよう、今までの誕生日で一番嬉しい。



とはいうものの屋上の出入り口は一つしかないし、鉢合わせになるのにどうするんだろう、と思っていると、視界に見えていたヘリがやたらと近づいてきていた。風で吹き飛びそうになりながら、私は悟った。
ファンたちが扉を開けるのと、跡部様が上空に飛び立つのがほぼ同時で。


「じゃーなー! メス猫ども!!」
おりてきたロープにつかまる姿も様になる跡部様。

なんてかっこいい人なの。


規格外の存在に、やっぱり私は跡部様が好きなのだと痛感させられた。


end
20131004


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