大事な妹は渡さない!



ざわつく廊下を進み、教室の扉を開ける。


「はよー!」

ガムを膨らませながら元気良く挨拶するブンちゃんに、周りが挨拶を返す。社交的なブンちゃんはすぐにこのクラスに慣れるだろう。私も物凄く人見知りという訳では無いけれど、ブンちゃんには負けちゃうよ。


「あ、ナマエちゃんおはよーさん」

『あ…っしらい、しくん!』

「なんやどもり過ぎやない?」

『うっうん、ごめんね?おはよう!』


昨日の夜ご飯はお赤飯で。あんなに蓮母さんに白石君の格好良さを力説してたのに、こうやって目の前で話すとなるとテンパってしまう。男の子と話すのはなんの抵抗も緊張もしないのになぁ……


「ははっ、ナマエちゃん可愛すぎやねん」


そう言ってまた笑った白石君。
どうしよう、私今日一日幸せだよ……!


「なに、ボケッとしてんだよぃ」

『ちょ、ブンちゃん!!』

何時の間にかこっちに座ってニヤニヤしながら私を見るブンちゃん。物凄く一発殴りたいけど、白石君の前だからそんなことできない。……ブンちゃん、家で覚えててよ。



そんなこんなで始まった授業。
まだ入ったばかりで授業らしい授業はしないからまだ楽。先生の説明を軽く受け流しながら、なんの部活に入ろうかなぁなんて考えていたら、鳴り響いたのは授業終了のチャイム。


一気にざわめきだす学校。先生もいなくなったので、ブンちゃんにお菓子でも貰おうと声をかけたその時、廊下でさっきとは違うざわめき。


「「ナマエ!!」



ガラリと音を立てて教室に入ってきたのは精兄とマサ兄。私も驚いたけど、周りはいきなりの上級生の登場に私以上に驚いている。
だが、そんな空気を無視してドカドカと教室に侵入すると私の席にやってくる。精兄なんてブンちゃんの席無理矢理奪った……



「ねぇナマエ。白石君ってどいつ?」


ニコニコと人の良さげな笑みを浮かべる精兄だけど、私この笑顔には良い思い出がないんだよなぁ…
白石君に何かあったら困るし、ここは私が頑張らないと!と決意を決めた私は精兄をじっと見つめた。


『精兄マサ兄……学校案内してほしいなー』

「いつでもどこでも案内するぜよ〜」

「ナマエの為だったらそれぐらい簡単だよ」


ぽわーっと嬉しそうに顔を揺るます二人に内心勝った!とガッツポーズしたのだが、


「うーん……おい、ブン太。吐け」


「あ、あちらの人です……」


くるりと私から視線を外し、隣で巻き込まれないよう小さくなっていたブンちゃんに精兄が笑顔でそう言うと、顔面蒼白なブンちゃんが白石君を指差した。って、ブンちゃんんんんん!!!


「ほぉ……あいつのぅ……」


マサ兄の目がキラリと怪しく光った。それと同時に精兄の足が白石君の方向へ進み出す。私が声を上げる前に重ねるように精兄が口を開いた。


「君が白石君?」

「ん?そーですけど……どちら様ですか?」


不思議そうな顔をしながら精兄に笑顔で対応する白石君。

「ナマエが……仲良くしてもらってるみたいで」



ニコリ。と音がつきそうな程の笑顔を見せた途端、教室にブリザードが吹いた。私まで冷や汗が流れる。ごめん!白石君!!と心の中で謝っていると、白石君の笑い声。

「ナマエちゃんのお兄さんらかー!末長くよろしくお願いしますわ〜」


し、白石君ってすごいな…じゃなくて!

『白石君、末長くってなんだかおかしくない?』


「そか?やって俺ナマエちゃん好きやし問題ないんと思うんやけど」


サラリと好きな人にそんなことを言われてしまえば、顔が赤くなるのは仕方ないことだと思う。

「ナマエちゃん顔赤「アハハハハハハ、君面白いね。ちょっとナマエ借りてくよ」


機械が壊れたみたいに笑う精兄の声には抑揚がない。マサ兄に「ナマエ、行くぜよ」と手を掴まれて引き摺られるように教室を出て行った私。その後次の授業なんかそっちのけで二人に説教と白石君だけはなにがなんでも駄目だと念押しされたのだった。

百年
早い!




(不二の次に駄目ぜよナマエ)(なんで周助?)(寧ろずっと俺といればいいんだよ)(いやいやいや……)






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