小説 | ナノ




最悪な日、だ。



「わっぎゃぁ!?」


ーーガタガタンッ


積み重ねて置かれていた本が、ぶつかった拍子に倒れた。



「色気のねえ声だな、紗季【さき】。」



助けるわけでもなく、机に頬杖を尽きながら、悪態をつくオトコ、宇原誠【うはらまこと】をキッと睨んで、落ちた本を拾い集める。


「…ちっ、」

「お前、オンナなんだから舌打ちはやめろよ。
ただでさえ、色気のねえ声なんだから。」

「うっさいわ、はげ。」

「はげてねえよ。
フサフサだわ、アホが。」



最悪な日だ。

よりによって、今日、日直で宇原とだったばっかりに、図書室掃除だなんてふざけてる。

…宇原が授業中に寝てさえいなければ。

こいつが寝てなければ…!!!!

あたしは、家で、溜まったドラマ見れたって言うのに!!!!

当の本人といえば、図書室にある机に頬杖を尽きながら、掃除を見てるだけ。


「口ばっか動かさないで、あんたも掃除してよ。
元はと言えば、あんたが悪いんでしょ。」


巻き込まれたあたしの身にもなれ、と暴言を吐き、掃除をする手を早める。

落とした本も綺麗に拾い、元あったはずの場所へ戻していく。


「あ、」


突然後ろから聞こえた声に咄嗟に振り返ると


「え、」


真後ろに立つ宇原がいた。

は?

いや。なんで?



「俺、これ好きなんだよね。」


と、そういって、戻そうとしていた本を数冊持っていく。

…行動不明過ぎ。

はあ、と呆れるようにため息をついて、本を元に戻して行った。








「終わった…!!」


一時間以上かかったけど、やっと終わった図書室掃除。

相変わらず、机に頬杖を尽きながら、興味もなさそうに本をめくる宇原に視線を移す。

…こいつ結局、何もやらなかったな。

若干殺意が湧いたけど、達成感に比べたらゴミだ。

ていうか、こんなやつを相手にしたら自分がゴミだ。

そう言い聞かせながら、宇原に声を掛ける。


「終わったから帰る。
日誌はよろしく。」

「ん。りょーかい。」



適当な返事の返され方に、若干弄っとするけれど、抑えて、置いてあるカバンを持つ。

宇原に背を向けて、扉の方に歩き出すと


「紗季!!」


呼ばれて後ろを振り向くと


「ありがとな。」


太陽みたいな笑顔で笑うから。

…心臓がドキッと音を立てた。


「ん、どういたしまして。」


軽く笑ってそう言って、気付かないふりをして、図書室を出た。








ちらりと視界の隅に入った宇原のところにある本は、私の背では届かない位置に返す本たち。


「…さりげなすぎんだよ、バカ。」



それに気付いてキュンとしたあたしが、なぜだか無性に悔しくて。

最悪、だ。

宇原にキュンとさせられるなんて。







<気付きたくないのに、心臓が邪魔をする>






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