君と僕の間に「好き」だけが欲しいよ
できたらどうか。
どうか、好きと言ってください。
それだけで、私は頑張れるのです。
それだけで、幸せだったと思えるのです。
「好きだよ。」
何の音もない部屋の中。
とある決意をしたあたしは、いつものように愛を囁く。
ねえ、ソラ。
お願いだから、さ…
「…ソラ、」
「ごめんな、シノ。」
優しさでいい。
嘘でいい。
貴方から貰える"好き"ならば、なんだっていい。
賭けなの。
この瞬間が、最後の賭けなんだよ。
「ソラ、」
「シノ、悪いけど出掛けてくる。」
ケータイと財布だけ持って、玄関の方へ去っていく後ろ姿を追いかけることはせずに部屋の中でギュッと拳を握る。
悪いなんて、1ミリも思ってないくせに。
ーー「ソーラ!今暇〜?
暇ならさ、遊ばない?」
電話から漏れた女の人の声。
"遊び"の内容は、ただの浮気だ。
全部全部あたしは知ってるのに、離れられなかった。
どうしても、そばにいたかった。
でも、それも今日で最後。
ソラに最後の望みをかけて告げた帰ってこない愛の言葉が答え。
あたしに望みなんてなかった。
それが、すべての答えだ。
限界を超えた苦しさは、どうしようもなくて、ただ心を闇に堕とすだけだった。
「…もう、嫌なんだよ。
醜くなるの、嫌なんだよ…」
ごめんね、なんて言わないよ。
言う必要もないもの。
あぁ、でも。
貴方が浮気する理由が、あたしが貴方を満足させていないからだというのなら、あたしが悪いね。
…でも、謝らないよ。
ごめんなんて言ってたまるか。
傷ついた分の"ごめん"を貰わない代わりに。貴方を愛した傷跡を残さない代わりに。
謝ってなんてあげない。
部屋中のありとあらゆる私物をスーツケースに詰める。
暮らしてきた思い出の数だけ荷物は多いけど、その分捨てるものも多い。
お揃いのマグカップ、タオル、歯ブラシ…。
それらの自分の分だけをいらないものの中にいれ、
ボードに飾られた2人の写真は、一枚ずつ外して、ゴミ袋に破り捨てる。
中学2年の時付き合い始めたあたしたちの記録が、散り散りになっていくのが目に見えるとズキズキと胸に痛みを覚えた。
あたしがこの場所に存在したことさえ、消してしまいたい。
ぼんやりとそう思いながら、記憶に存在していたいと願うあたしは、どれだけ矛盾してるのだろうか。
***
それから無心になって作業を続けると、一時間もしないうちに片付けは終わった。
ぐるりと部屋を見渡すと、半分以上が無くなって、ほんの少し寂しい部屋になった気がした。
その瞬間、
「ッ…、」
涙が、こぼれた。
2人の写真が外されたボードに残るのは、ソラの写真とソラの友達の写真。
一枚だけ、私の写る写真があるけれど、それは中学の卒業式の写真だから独断では捨てられるものではない。
それだけが、あたしが貴方の人生にかかわった証拠だと思うと、愛おしくなってしまう。
そっと触れた写真の中で無邪気に笑うソラとあたしに、小さく呟く。
「ごめんね…っ、」
永遠を信じたあの頃のあたしへ。
隣にいるのは貴方だと信じて疑わなかったあの頃のあたしへ。
ーー「俺たち、何年先もずーっと一緒にいる気がするんだ!」
ーー「あたしも、ソラ君のいない未来なんてありえないよ。」
永遠を疑わなかったあの頃の"あたしたち"へ。
「ごめんね…ごめん、ね…っ、」
あたしには、守れなかった。
果たせなかった。
貴方達の望む未来は、私が今、ぶち壊そうとしてる現在【イマ】だから。
「…っ、ばい…ばい、」
(貴方がくれたすべてのものを)
(私は捨てると決めた)
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