本気だったって、気付いてるよ
俺たちみたいに、友達から恋人に、なんてよくある話だ。
たまたま喧嘩して、そのまま別れるのもまたよくある話だ。
そう。
よくある話、なんだ。
下らない話をして、笑いあって。
たまに喧嘩して。
次の日になったら、何事もなかったかのごとく、ただふざけあう。
あの日は、たまたま大きな喧嘩をしてしまっまて、意固地になって収集がつかなくなって。
何事もなかったかのごとく、俺たちの関係は終わりを告げた。
「はあ?好きじゃないわよ、もう。」
伶奈。んな残酷なこと、言わないでくれ。
そんなこというな。
嘘つき。
知ってるから。
お前が、俺のこと、本気で好きだったて知ってるから。
俺のこと、本気で好きだってこと、知ってるから。
「むしろ、"もう"も間違ってるだろ、お前の場合」
気付いていて。それでいて。
俺は君の嘘に、笑い続ける。
「うっさいわね。」
「ほら、否定しねえじゃん」
ねえ、肯定しろよ。
俺が好きだって、目で言うんじゃなくて。
目で肯定するんじゃなくて。
口で、好きだと肯定しろよ。
そうしたら。
俺だって、お前を好きだって肯定するから。
お前と過ごした時間を、俺の勘違いにしないでくれ。
幸せだと笑いあった時間を、嘘に、しないで。
だから。
踏み出してやろうと思ったんだ。
いつまでたっても、きっとお前は踏み出してくれないから。
言わせたいって思ったけど、無理だろうなって思ってしまったから。
「つーかさ、伶奈【れな】。」
「あー?」
「クリスマス、暇?」
「…え、なに。
デートの誘いとか言ったら、あんたの脳内イかれてると思う」
「あ?ちげえわ。ごーこん。」
嘘をつくのが上手くなったのは、お前のせいだ。
笑顔を作るのが上手くなったのは、お前のせいだ。
そんなの、必要ないのに。
お前と、俺と、笑い合えればそれだけでよかったのに。
困ったように笑うなよ。
引いてるように見せて、心が涙を流してる。
知らないと。気付いていないと思ってるんだろうな。
そんなわけないのに。
「なんかさ、俺のダチがモノ好きで、」
嘘。
モノ好きなんかじゃねえよ。
だってお前、いいやつだし。
可愛いし。
俺のものにしたいくらいだし。
みんな、思ってる。
「お前のこと気に入ったらしくてさー。
連れて来いってうるさいわけよ。」
本当は、嫌だけど。
「モノ好きってあんたね…
一応あんたの元カノなの。」
そうだね。
俺は、お前の元彼だ。
「あんたもモノ好きの一人よおめでとう」
「あ?ちげえよ。」
違うよ。違う。
俺は物好きじゃねえよ。
お前の方が、俺みたいなヘタレな男を好きになるなんて、モノ好きだろ。
「どこがよ」
「好き同士じゃねえのに、モノ好きになるかよ。あほか。」
傷ついた顔すんな。
そんな顔をするくらいなら、俺にぶつかってこいよ。
なあ…。
俺のこと、求めろよ。
「大概よね、あたしたち。」
「あ?なんで?」
「好き同士じゃないのに、付き合って喧嘩して別れる、なんて。」
嘘つき。
うそつきうそつき。
好き同士なくせに。
今だって、変わらずに好きだって思ってるくせに。
「…ばかみたい。」
「…?なんかいった?」
ポツリと呟かれた言葉を聞かなかったふりをして。
「言ってない言ってない。
耳遠くなったの?どんまいすぎる。」
「おいこらてめえ!
人を勝手に残念な目で見るなやめろ。」
いつまで嘘つく?
そろそろ、素直になってほしいよ。
「で?合コンでしたっけ?」
「あ。そうそうそれ。
お前が話そらすから、抜けてたじゃねえか。」
「あたしのせいなの?
自分の記憶力のせいでしょ。」
「…で。
伶奈いつ暇?」
お願いだから。
無理だと断って。
そして、俺を好きだって言えよ。
「あー、拒否権ないの?」
「おう。たりめーだ。」
…嘘。あるから。あるよ。
だから。断われよ。
いつもみたいに、嫌だって機嫌悪い振りをすればいいから。
「んー…」
「はよせい。」
「じゃあ、来週の水曜日。」
その言葉を聞いた瞬間、俺の頭がフッとシャットダウンした気がした。
「…え、」
「なんか都合悪かった?
こっちに合わせてくれるんでしょ?」
「あ、いや…そう、なんだけど。」
揺らぐな。
俺が揺らいでどうすんだ。
俺が揺らがせて、絶対にお前に言わせる。
…付き合っていた頃、言ってもらえなかった言葉たち。
あの日、喧嘩をした理由。
お前は、覚えてるかな。
ーー「…伶奈って、好きって言ってくんねえよな」
ーー「…、」
ーー「…俺のこと、好きじゃねえ?嫌い?」
ーー「…」
言って欲しかった、だけだった。
何年も一緒にいれば、そこそこ考えてることだってわかるようになる。
伶奈が、俺のことを口に出さないけど、好きだって思ってくれてることは分かっていた。
だけど。
それだけじゃ、足りなくなった。
「その日以外は行かない。
無理なら断っといて。」
なあ。
今のお前の表情、わかってる?
どれだけお前、俺のこと好きなんだよ。
泣きそうな顔で言うくらいなら、やめればいいのに。
「…分かった。
その日で決定な。」
「お店は…、」
「駅前の居酒屋。
ここは、譲らない。
店はこっちで既に決定済み。」
嘘。
本当は決めてなんかなかった。
けど。
お前が前に進もうとするから、俺のことを思い出せばいいって思って、咄嗟に出た俺たちの始まりの場所。
案の定、驚いた顔をして、困ったように笑う姿に、胸が苦しくなった。
「…そか。
あの店、美味しいもんね。」
「…食い意地ばっか張って、俺のダチ、ガッカリさせんなよな。」
むしろ、がっかりさせろよ。
それで。
俺を見ろよ。
「いいでしょ別に。
あんたのダチに、がっかりされたところで傷付かないから。」
そう言って背を向けるお前を、ここ数ヶ月ずっと見てきた。
「んじゃ、講義入ってくる。」
「あ、俺も入ってるから一緒に行くわ」
「まじで?
パクんないでよ、気持ち悪い。」
「お前がパクったんだろ。
お前の方が気持ち悪りぃよ。」
なあ。どうすればいい?
俺から"好きだ"なんて言っても、きっとまた、お前が言ってくれないなら続かないと思うんだよ。
…俺、女々しいから。
お前の口から、俺が好きだって言って欲しいから。
言ったら届く?
お前は、あたしも、と応えてくれる?
合コンなんていったら、あいつらに取られちゃうかもな。
俺なんかより、いいやつなんてたくさんいるから。
…やだな。
それは、いやだな。
「…わっ?!
なにすんの、魁斗。」
「や、あの、さ…」
衝動的に掴んでしまった腕を離せなくて。
不思議そうにしながらも、頬を紅く染める伶奈が愛おしくて。
あぁ、だめだ。
俺の方が、好きがでかすぎる。
「…俺、伶奈のこと、本気で好きだった。」
もう、やめよう。
大きすぎて、疲れてしまった。
君が言ってきてくれると信じているのにも。
君を好きだと叫ぶこのココロも。
全部。全部、大きすぎる。
「ごめんな。
もう…やめる。」
「…ぇ?」
「もう、お前のダチ、やめる。
合コンは、セッティングしとくから。
俺は、行くのやめる。」
残酷だ。俺。
伶奈の顔が歪むのが見えて、俺のこの行動のおかげで、伶奈の心が少しでもかき乱されたのがわかって、嬉しくなった。
俺がいくらお前の気持ちがわかっても、それはお前が貫きたいココロじゃないかもしれない。
…だから、そばにいるのをやめるよ。
「…許せよな。
お前のこと、すっげえ本気で好きなんだ。
だから、」
過去形になんてできてないから。
お前みたいに諦めることもできないから。
「俺は、あの場所で他の奴と始まるところを見たくない。
ワガママで、ごめん。」
「か、」
「先、行けよ。
俺は、今日の講義は出ない。
具合あんまよくないし。な?」
君はなんだかんだ優しいから、俺をきっと引き止める。
そんなの、当たり前に知ってるけど。
…まるで、試してるみたいだ。
「…本当に、終わらせる?」
俺が腕を離した瞬間、服の裾をキュと掴んだ伶奈は、俺の胸に頭をつけた。
「…終わらせるよ。」
「終わらせられるの?」
「終わらせられるよ」
まるで自問自答してるみたいだ。
まるで復唱してるみたいだ。
自分の胸元が、濡れて重くなる。
「あたしが…あたしが、魁斗のこと、本気で好きだって言っても?」
うん。と、うまく頷けなかった。
当たり前だろ。って、うまく笑えなかった。
そりゃそうか。
俺、伶奈のこと、好きなんだもんな。大好きなんだもんな。
「…っ、」
「…友達でもいいのよ。
恋人じゃなくてもいい。
だから、やめるなんて言わないで。」
伶奈の涙で、俺のTシャツはびしょ濡れだ。
濡れた重みでさえも、愛おしいだなんてバカげてる。
そっと体を離すと、顔をぐしゃぐしゃにして泣く伶奈が見えて…
「やっぱり、無理だ」
やっぱり、君にはかなわない。
(本気だったって気付いてるよ)
(本気で好きだってわかってるよ)
(だから)
(本気と本気で)
(永遠をもう一度)
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