小説 | ナノ




本気だったって気づかないで。




「はあ?好きじゃないわよ、もう。」

「むしろ、"もう"も間違ってるだろ、お前の場合」

「うっさいわね。」

「ほら、否定しねえじゃん」





いつからだろう。

隣で笑い合った日々が
嘘のようになってしまったのは。


ほんの少しいつもより大きな喧嘩をして、
そしたらなぜか、別れたっていう噂がまわって。

流されるように、あたしたちは別れた。



彼を好きな自分が、なぜか恥ずかしくて。

本気だった、なんて気付かれないように、偽るように、半年経った未だに喧嘩をしてる。








「つーかさ、伶奈【れな】。」

「あー?」

「クリスマス、暇?」

「…え、なに。
デートの誘いとか言ったら、あんたの脳内イかれてると思う」

「あ?ちげえわ。ごーこん。」







元彼、なんてそんなもので。

今さら、好き、なんてもらえるなんて思ってないけれど。






「なんかさ、俺のダチがモノ好きで、お前のこと気に入ったらしくてさー。
連れて来いってうるさいわけよ。」





モノ好き、ね…。

魁斗【かいと】の言葉を繰り返す。




「モノ好きってあんたね…
一応あんたの元カノなの。
あんたもモノ好きの一人よおめでとう」

「あ?ちげえよ。」

「どこがよ」

「好き同士じゃねえのに、モノ好きになるかよ。あほか。」






あ、今。胸が、ズキって音を立てた。

好きだって、音を立てた。

苦しいよって、音を立てた。







「大概よね、あたしたち。」

「あ?なんで?」

「好き同士じゃないのに、付き合って喧嘩して別れる、なんて。」






こうやって嘘をつくのも。

こうやって笑顔を作るのも。


誰のため?

自分のため?

あんたのため?



そんなの、自分のためなのは分かってる。

あんたの隣に居たいから、なんて。


すごくバカらしくて。

だけど。

あたしにとっては、最重要要項で。








「…ばかみたい。」

「…?なんかいった?」

「言ってない言ってない。
耳遠くなったの?どんまいすぎる。」

「おいこらてめえ!
人を勝手に残念な目で見るなやめろ。」









笑顔、作れてるかな。

笑えてるかな、ちゃんと。


あんたが、変わらないでいてくれたら、あたしは何だってする。







「で?合コンでしたっけ?」

「あ。そうそうそれ。
お前が話そらすから、抜けてたじゃねえか。」

「あたしのせいなの?
自分の記憶力のせいでしょ。」

「…で。
伶奈いつ暇?」






いつまでも、このまま。






「あー、拒否権ないの?」

「おう。たりめーだ。」





このまま。

変わらず、あんたと馬鹿やることは。






「んー…」

「はよせい。」






難しいこと、なのかな。






「じゃあ、来週の水曜日。」

「…え、」

「なんか都合悪かった?
こっちに合わせてくれるんでしょ?」

「あ、いや…そう、なんだけど。」







どもるあんたの理由が、せめてあたしであるなら、救いようがあるかもしれない。

でも、きっと違う。

あたしなんかじゃない。







「その日以外は行かない。
無理なら断っといて。」







来週の水曜日。

あんたとあたしが、付き合った日。

あたしがあんたを好きだと言って、あんたが私を好きだと言ったあの日から、4年。



気付いているかな。

当てつけのようにその日にした理由に。



こうすれば、あんたに会えるって思ってしまったから。



その日に違う女の子を、あんたがお持ち帰りしてくれさえすれば。

あたしは、君に縛り付けられることなくサヨナラできるはずだから。







「…分かった。
その日で決定な。」






やめて。

やめてよ、お願いだから。


そんな顔、しないで。


傷ついてますって。

悲しいですって。

そんな顔して笑わないで。






「お店は…、」

「駅前の居酒屋。
ここは、譲らない。
店はこっちで既に決定済み。」







あの日。あの場所で。

あたしたちが始まったあの場所で。

あたしたちは、新たな道に進もうとする。




やめて。やめて。やめてやめて。

行っちゃいやだよ。行かないで。

あの場所に。あの日行った場所に。

終わったあたしたちが行くべきじゃないはずなのに。







「…そか。
あの店、美味しいもんね。」

「…食い意地ばっか張って、俺のダチ、ガッカリさせんなよな。」

「いいでしょ別に。
あんたのダチに、がっかりされたところで傷付かないから。」







ほら。いつも通り。

いつも通りで、笑おうよ。



お互い辛気臭い顔して、まるで未練があるような顔して。

お互い好きだったくせに別れたカップルのような雰囲気醸し出してないで。



笑え。笑え。笑え。








「んじゃ、講義入ってくる。」

「あ、俺も入ってるから一緒に行くわ」

「まじで?
パクんないでよ、気持ち悪い。」

「お前がパクったんだろ。
お前の方が気持ち悪りぃよ。」






大丈夫、でしょ?

あたしたち。


壊れたり、しないでしょ?

大丈夫、だよね?












(意味深なあんたの態度が)

(やけに苦しくて)





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