本日もこの距離変化なし
私はそんなに弱くないから。
"素直になれ"?
…なんて馬鹿げてる。
一人で行きたいわけじゃない。
…弱い私なら愛してくれた?
こんなことを考えてる私に…
どうかどうか…
気づかないままでいてください
「ナツーーっ!!
週課題が終わんねえよハゲる!!!!」
「週課題くらいなら手伝う。
そんなんでハゲたりしない。
…だから、」
頑張れアキ、と幼なじみであるアキを慰めた。
ただ今、私、ナツミの部屋でお勉強会中。
…といっても、アキと私だけだし、アキがやる気を起こさないのが、かなりの問題だ。
解けねえっ!!!!と髪の毛をぐしゃぐしゃと手でかきむしってるアキに小さくため息をついて机にある課題に目を通した。
「アキ、これ始めて何分たった?」
ほとんど白紙のノートを指差して、そういうと、
「んー…3…60分、かな…?」
てへぺろ、とウインクをしてきたアキをノートで叩く。
「ってぇ!!」
「うっさい。
早くやんな、馬鹿アキ。」
「ちぇ…」
さすがにヤバイとかんじたのか、やっと真面目にノートに向かったアキに、ホッとため息をついた。
「なあ、ナツ。
また、優勝…したんだって?」
ノートに向かい、ぺんをうごかしたまま、アキはそう私に聞いた。
その問いに、軽く体をピクッと反応させた私はアキから目を離した。
その目を部屋の本棚のトロフィーたちのところへうつす。
「ん。まあ…ね。」
空手、柔道、テニス、卓球、水泳…などなど、様々なトロフィーが並んでいる中、一番輝いているのは、この前優勝したときのもの。
「…もう弱くねえよ?」
アキは力強くそういった。
「守られる…じゃなくて、守れるよ、俺。」
ーー「アキを守るから!!
強くなるから、だから!!!!」
「泣いてばっかの俺じゃ…もうねえよ?」
ーー「だからアキ…っ、泣かないで!!」
「うん。知ってる。」
あの幼い頃の自らが立てた誓いは、いつまでと私自身を縛り付けている。
練習ばかりするくせや、一匹狼なところ。
…それは、全てその誓いの影響だ。
「ナツミお前…今だに友達、いねえだろ。」
「別にいらない。」
「ナツミ…」
武道を心得ているあたしを周りは恐れ、しかし尊敬していた。
友達、じゃなく、憧れの人、だ。
そこから、昇格するわけでも降格するわけでもない。
それに喜びを覚えたこともないし、虚しさをおぼえたわけでもなかった。
「お前、素直になれよ。
いつまで一人で居る気だよ。」
「いつまでも」
「っ、ナツ!!」
ここで一人じゃないなんて言ってくれないとこほがアキらしくて、切なくて、胸がわしづかみされる気分になった
。
「…何。」
それを振り払うように返事をする。
「俺だってお前とずっと一緒にいられるわけじゃねえんだよ。」
気付けばアキは、あたしの前に来て、真剣な目であたしを見据えていた。
「分かってる。
…大丈夫、分かってるから」
何が…大丈夫、だよ。本当は今でも泣きそうだというのに。
心の中で悪態を吐きながら、だけど態度には微塵にも出さずに、アキを見つめ返した。
アキが何が言葉を発せようとした瞬間、アキの携帯がなった。
気まずそうな顔をしながら、その電話に出たアキは、その瞬間口角を上げた。
「うん。あー分かったって。ハイハイ。
…ふ。や、笑ってない笑ってない。」
締め切ったこの部屋に響くのは、楽しそうなアキの声だけ。
「あーハイハイ。今から行きますよ。
ん、了解。じゃ、あとでな、ユキ」
やけに"ユキ"と呼んだアキの声が響いた気がした。
「ごめん、ナツ。
ユキのとこ行くわ。」
「課題は?」
「ユキとやる。」
「ちゃんと終わらせなよ?」
「はいよ。
…じゃあ、帰るわ。」
「ん。」
がちゃ…という音とともに、この部屋を去っていったアキ。
"ユキ"というのは、アキの最近できた彼女。
あたしと、正反対の女の子。
か弱い、という言葉にピッタリか少女に劣等感を何度も感じた。
だけど、それを抱いたとしても変わることのないあたしとアキの距離が現実で。
涙が浮かぶ瞳に気づかないふりをして、唇をぎゅっとかんだ。
涙を流してしまえば、認めるようで怖いから。
気付いてしまったようで辛いから。
その言葉から気持ちから、あたしは逃げつづけている。
"スキ"という"恋の気持ち"から。
(全てに気づかないふりをして)
(変わらず君と笑い合う)
(それだけで十分だ)
"強がってばかりの私"をお借りしました。
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