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迷子



「うぅ……」

沢田津奈、3歳で人生初の迷子になりました。
賑わう商店街の片隅で溢れ出しそうな涙をぐっと堪えた。

「……おい」

「んぇ?」

プルプルと震える私に声をかけたのはぱっと見中学生位の男の子。
見上げると漆黒の髪の色に燃えるような赤い瞳の顔立ちの整った目つきの悪い人。
……かっこいい、なんて三歳児の癖に。
なんて言われるかもしれないが思ってしまう。

「おい」

「は、はいっ」

その人のかっこよさに見惚れぼーっとしている私に低い声で声をかける。
さっきとは違う少し強い言い方にびくりと肩を揺らしてしまった。

「来い」

「やだ」

「……何でだ」

その人は整った顔を歪ませて言った。

「お母さんに知らない人にはついて行くなって言われてるもん!」

「……いいから来い」

私の精一杯の発言を無視し、私を米俵のように担ぎあげる。
これじゃゆうかいしてるみたいだよ!
つかまっちゃったよ〜、なんて目をぐるぐると回しながらお母さんとお父さんにごめんなさいと心の中で唱えた。

無言のまま、見慣れた風景をぼーっと見ながらされるがままにする私。
と言うかこの体勢つかれるよ……。

「あれ? ここ……」

私の家?
なんでこの人が知ってるんだろうと思いながら、ぱあっとした表情になりその人の肩から降りる。
ダンっと着地しジンジンと痛む足をおぼつかせながらドアを開けた。

「お母さんーお父さんー!」

「津奈! もうどこに行ってたの!? 離れちゃダメっていつも言ってるでしょ?」

「ごめんなさい……」

怒鳴りながらも私を抱き締めて頭を撫でてくれるお母さんにえへへと笑いながらごめなさいともう一度言った。
あれ、知らないくつがある。

「一人でここまで来れたの?」

「ううん、お兄ちゃんが連れてきてくれたの」

「お兄ちゃんって……ザンザス君?」

ざんざす?
外国の人かなぁ。
目も赤かったし、でも外人で黒いかみって珍しいなあ……。

あ、お兄ちゃん放置してた!
ハッと気がつきお母さんから離れドタドタとまだ居て! と願いながら玄関にドアを開ける。

「ぁ、お兄ちゃん!」

「…………っち」

舌打ちされた!
でも迷子の私をここまでつれて来てくれたんだもん。
きっといい人だ!
それにかっこいいし……、なんて。

「このお兄ちゃんが連れて来てくれたんだ!」

「あらぁ、ザンザス君ありがとうね。パパーティモッテオさんーザンザス君と津奈ちゃん帰ってきましたよー」

間延びしたお母さんの言葉にお父さんと知らないおじいさんがリビングから出てきた。
知らない人だ……。
持ち前の人見知りを早くも発揮しお母さんにガシッとしがみつく。

「怖がらなくていいよ、津奈ちゃん」

「津奈、この人はパパの上司なんだ!」

「じょうし?」

「んーつまり一緒に働いてて、父さんの知り合い!」

知り合い、その言葉にピクリと反応した。
ティモッテオさん、ってことはこの人も外人さんなのかなー。

「おじいちゃん、沢田津奈です。3歳です!」

「おぉ、偉いねー」

そう何時ものように自己紹介をすると頭を撫でてくれた。
なんだか落ち着くなぁ、本物のおじいちゃんみたい。

「ザンザス、すまなかったね」

「別に……」

おじいちゃんの言葉にそっけなく返すザンザスさん。
知り合いじゃないのかな?

「さぁーザンザスも津奈も中に入った入った」

「うん!」

お父さんの言葉に頷きリビングに入る。
その後に続けてザンザスさんも入った。


「わぁ、ケーキだ!」

「ふふ、ツっちゃんの好きな並盛堂の抹茶ケーキもあるわよ」

「やったー!」

私はスイーツ、生クリームとかは甘過ぎてそんなに好きじゃないけど抹茶は大好きなのだ。
アイスクリームもだいたいの味は抹茶か黒ごま、和風系大好きです。
てんぷらは好きじゃないけど……。

「いただきまーす」

ソファに座って抹茶ケーキを頬張る。
うん、おいしい!

「お兄ちゃんは食べないの?」

隣に座っているザンザスと言うお兄ちゃんに声をかけた。

「あ"? いらねぇ」

「甘いものきらいなの?」

「……」

黙ってしまった。
うー、おこらせちゃったのかな?

「ふーごちそうさまー」

なんて罪悪感を感じながらもペロリと抹茶ケーキを平らげた私だった。
甘い物の誘惑には勝てないのだ。

「二人とも遊んできたらどうだい?」

「うん、遊ぶ! 行こーお兄ちゃん」

おじいちゃんの提案に頬杖をつくお兄ちゃんの手首を掴み庭に出た。
常備されているサンダルを履きやわらかい素材のボールを持つ。

「キャッチボールしよ!」

「……やんねぇ」

「えい!」

「人の話聞けカス」

とは言いつつも片手で受け取るお兄ちゃん。
なんか良いなーこういうの。
私兄弟いないからあこがれてたんだよね!

「ちっ」

「わぶっ!」

お兄ちゃんの軽く放ったボールは何故かテレビで見る野球選手の様な速さで私の手にかすった。
痛い! 痛いぞぉ!
でも

「すっごいね! 野球選手みたい!」

「あんな奴らと一緒にすんな」

「えーでも、お父さんがプロになるとおくが入ってがっぽがぽって言ってたよ」

私の発言を聞いたお父さん以外の三人はお父さんをジトーと見た。
お父さんは「そんな目で見るなって!」なんて笑ってた。

「ガキに何言ってんだあの野郎は……」

ぼそっと呟くお兄ちゃんをジーっと見る。

「……なんだよ」

「お兄ちゃんって外人さんなのに日本語ペラペラだね!」

「あ? 当たり前だろ、7ヶ国語は余裕で喋れる」

「すっごーい!」

7ヶ国語、7ヶ国語!
日本語以外に6ヶ国語も喋れるんだ……。
すごいなー。

「おいガキ」

「私津奈だもん、ガキじゃないーだ!」

「ちっ、津奈。お前この目が怖くねぇーのか?」

(なんでそんな事きくんだろー)




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