黄瀬のはなし

席替えがあった。
女の子にちょっかいをだされて男達に羨まれる変わらない毎日。
席替えをする度にちょっかいを出してくる女の子が変わる。
だからオレとしては席替えをしようがしまいがどうでも良かった。

前後左右の席のクラスメートの名前はいつも覚えていない。
だから苗字くんの名前が気になったのは初めてだった。
森山先輩風に言うとこれは運命だと思う。
休憩時間になると席を立ちどこかへ行く彼、プリントの受け渡しくらいでしか顔を見ないし、喋ったことはない。
彼はバスケ部じゃないので教室でしか会わない。
体育の2人組を組んでからよく話すようになったし、教室でも顔を認識するようになった。
仲良くしようと思っても苗字くんの友人さんのガードが固い。苗字くんは気付いてないけれど。

苗字くんと話すとオレの価値観は変わって行く。
映像作品に興味がないか、と聞かれた時、映像作品には興味がなくて苗字くんに興味があったので話に乗った。
作品を完成させようと躍起になる苗字くんは輝いて見えた。
バスケの練習であまり関われなかったが苗字くんに少し触れることが出来た気がする。
海常高校に来てバスケ以外にこんなにも胸を高まらせたのは初めてだ。
バスケ部以外と関わっていなかったので、笠松先輩達に話すと大層驚いていた。
赤飯を炊くと言われた時はどうしようかと思った。

そして、次の席替えで苗字くんと離れた。
席が離れたからと言って苗字くんとの交流が途絶えるとは思わなかったので、いつも通りだと思っていたら違っていた。
苗字くんと話す隙がなく少し遠ざけられている気もする。
もやもやした気分が続いた。

もう限界だ、と思ってた矢先に苗字くんと話せた。そしてDVDを貰った。
早く家に帰ってみよう。
苗字くんの気持ちを知りたい。
大きな音を立てて家へ帰り、部活でヘトヘトなはずだったけどそれも忘れてDVDを再生した。


駅でひとり佇む少年の手には綺麗な花が一輪。後ろ姿で顔は見えないがとても寂そうである。
電車が通過すると、違う駅で佇む同じ少年の後ろ姿が。
駅毎に手に持つ花が違い、綺麗な花と少年の寂しい雰囲気が目に残る。


ほんの10分ほどの作品だったが、瞬きが出来ないくらいに目が離せなかった。
画面から苦しい気持ちが伝わってくる。
ドキドキして胸が痛くて…。

ああ、これが苗字くんの気持ちか。

そう理解すると頭がクリアになった。
早く苗字くんに会いたい。会って抱きしめてオレの気持ちを伝えたい。
どんな顔をするだろうか。出来れば笑って欲しい。


こんな気持ちになったのは初めてだ。









「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -