第一章 とんがり帽子は笑えない



魔法使い。
とんがり帽子を被り、身の丈ほどもある大きな樫の杖を振るって、主人公の冒険の行く先々で手助けをしてくれる者。立派なあごひげを生やし勿体ぶるやつもいれば、箒で飛ぶのが下手で墜落しては仲間に笑われるやつもいる。
今まで手に取った本の中の魔法使いは皆、ちょっと愉快で頼もしい人物として描かれていた。

白銀に輝く剣を携えて、仲間を守るため敢然と戦う騎士にも憧れを抱いたりはした。けれど、昔から怖がりで泣き虫だった俺には、勇気を振り絞って戦う自分の姿がさっぱり想像できなかった。
だから、奇跡を起こす魔法使いに強く惹かれていったのだろう。

この世界において、魔法と呼ばれるものが身近であったのははるか昔の話だ。
今でもごく一部の場所でなら似たような奇跡を操る人々がいるらしいが、大衆の手からはとっくに離れてしまった、夢見物語のような存在だった。

それでもなお、憧れの念が尽きることはなく。
俺は魔法を使えるようになりたいと言って、まず形から入ろうとあれこれ試行錯誤してみたものだ。葉っぱのついた細長い枝を持ち歩いたり、地面に円と星を組み合わせた模様を熱心に書き連ねてみたり。
その様子を見かける度に、これはなに?と楽しげに聞いてくる声と、呆れて小馬鹿にしてくる眠そうな顔もうっすらと記憶にある。
もし俺が夢見小僧のまま成長していたとしたら、たぶん考古学者にでもなって、魔法を駆使していたかつての文明の跡でも辿っていたんだろう。

あれから10年ほど歳月が流れて。
小さい頃の夢なんてとうに思い出さなくなっていたが、一体どういう縁があったのか、俺は魔法使いの真似事をするようになっていた。

これを魔法と呼んでいいのかはわからない。
己が赴くままに振るう、ただ荒々しいだけのもの。本の中の魔法とはあまりにもかけ離れていて──きっと、仲間を救う奇跡になどなれやしないのだ。

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