はじまりはじまり

はじめに“それ”が“そこ”に或るモノではないのだと気付いたのはいつだっただろうか。

物心がついた頃には当たり前のように見えていて、当たり前のようにそこにいた“それ”が他の人には見えないらしいと知ったのは大分後になってからのこと。“それ”が、自分が、普通でないと言う自覚すら幼いおれにはなかった。それくらいに幽霊と呼ばれる“あれら”が見え、そこにいることは、おれにとっては普通のことだった。
昔から運が悪かった。“あれら”に邪魔をされ不運に見舞われることもあったけれど、それとは関係なく単純に俺自身の運も悪いので避けられない事態が多い。故意と偶然が重なって、些細なことで怪我をしてして、些細なことで間違って、些細なことで死にかける。“あれら”と同じくらい、不運もおれにとっては当たり前だった。

それが何年まえのことだったか、詳しいことは覚えていない。なんせ当たり前のように“不運”に巻き込まれてきた人生なので。似たような事例はいくらでもある。

初めは確か、そう、野生ポケモンのテレポートに巻き込まれたのだったと思う。その後にも船だか車だかの荷物に紛れてしまったり、崖から落ちたり、ポケモンの技に巻き込まれて吹っ飛んだり……とにかく色々なことがあって、おれはおれの家から遠く離れた地へと辿り着いた。
当時はまだ幼く、今以上に世間知らずだったせいで住んでいた場所の名前もわからず、15歳となった今も、おれは未だに自分の故郷すらわからずにいる。

「こうして改めて聞くとあれだね、君は本当に不憫だ」
「それわざわざ口に出します?」
『ゴース……』
「ほらゴーストも抗議してますよ」
「随分仲良くなったよね、君たち」
「聞いてくださいよー」

ある時やっぱり“不運”に見舞われていたおれが辿りついたこの町、エンジュシティ。そこで出会ったマツバさんの家で、現在おれは暮らしている。

どうにもマツバさんもおれと同じく“みえる”人のようで、さらには“あれら”を追い払う術も持ち合わせていた。加えてお寺という場所の特性か、“あれらはここに立ち寄ることがない。
おれはどうにも“あれら”を寄せ付けやすい体質でもあるようで、そのせいでここを離れることは難しい。出会った当初が10歳にも満たなかった年齢だったこともあり、そのままこのお寺で俺はお世話になっていた。

この地を中心としておれはおれの故郷を探しているが、未だそれと言ったと手がかりを得ることはできない。

これは、そんなおれが怪異に巻き込まれたり、故郷を探したりする話だ。

怖い目にもたくさんあってきたけれど、大概の困ったことはマツバさんがどうにかしてくれるから、安心して欲しい。
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