02

私とは誰のことだろう。最近はそんなことばかり考えている。

この暗闇に閉じ込められてから、どれ程の時が経ったのかはわからない。ほんの数分の出来事なのか、はたまたもう何年も経過してしまっているのか。そもそも私はここに来る前はどこにいたのだろう。それともここで生まれ、ずっとここにいたのか。
相変わらず音はなき続け、変化と言うものは訪れない。

変わったことといえば、最近になって少しだけあの“音”の“声”がわかるようになってきたことだろうか。
‘声’はとにかく憎い、恨めしい、許さないと言う感情を繰り返しているようだった。

私が意識を取り戻した当初は、あれは怒りと憎しみに囚われ身動きが取れなくなった存在なのかと思っていた。だが声がわかるようになると、そこにあるのは羨望にも似た思いなのだと理解できる。
今ではあれの声を理解することに精を出すことでどうにか生きながらえるようになっていた。唯一の刺激があの声だけなのだから、それは仕方のないことだろう。 あれの言葉を理解出来るようになった時、はたして私が正気であるのかはわからないが。

「……だ、……ない……。……、…………!」

少しだけ聞こえた言葉は『許さない』だろうか。
言葉を言葉と理解することは出来ずとも、そこに込められた想い程度ならわかるようになってしまった。感情というものは案外、言葉ではなく音自体に込められているものらしい。

「………れ、………?……、」

時折声は正気に戻っているようで、混乱しているように思えることがある。恐怖と、疑問と、失望。そう言った想いに目覚めては、また怒りに身を預ける。その繰り返しだった。どうして自分がこんな目に、とでも思っているのだろうか。あれに、どれだけの明確な意思が宿っているのかは解らないが、そうなのではないかと私は思った。

「       」

私自身も時折、音を出す事を試みる。けれども伝えたい事も、相手もいない今では吐き出す言葉も見つからず、そうでなくとも、結局何も発することは出来ない。声を出したいと言う思いはあれど、それ以上にも以下にもなれず、結局は何の意味もないものだった。

あれはああまでして、何を伝えたいのだろう。それとも、感情のままに音を紡いでいるだけなのか。そうだとして、これだけの間、強く在り続けるその感情の矛先はどこに向かっているのだろう。自身か、他者か、はたまた別の何かなのか。

私には、私を表す形がない。名も、身体も、何も。
ああして表すものがあると言うのは、ひょっとすると素晴らしいことなのかも知れない。

また同じ疑念に辿りついた自分に、あれもこうして繰り返しているだけなのだろうかとふと考えた。


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