prologue


全部が全部、嘘だったのでは無いかと考えるのは何度目だろう。
そう考える度、嘘ではないと想うのも何度目だろう。

――偽物と呼ぶには鮮やかで、本物と呼ぶには不確かで。

思い描いた景色はひどく朧げで、遠く過ぎ去った日々を確かめる術はない。
ぽっかりと空いた穴だけが、今でも確かなものとして手元に残っている。ただそれだけで、形あるものは何一つ残ってなどいないのに。

――目を閉じなくとも鮮明に描けるこの景色を。
自分のことを、  のことを。


それら全てを無かったことと忘れるには惜しく、まぶし過ぎ、燻んだここでは息もできやしなかった。

だからこそ、今と昔の中間で惹かれるのはずっと、あの日々で。
それこそが全てで。

――それを、夢にはしたくなくて。夢だとは、思えなくて。

こちらのほうが現実なのだと、受け入れるにはまだ、幼かった。





『――そうしてかれは、しあわせなおわりをむかえました』


どこにでもある、有り触れた最終回。
夢の終わりは呆気なく、それでも、そう、よくある話だったのだろう。
それなりに報われた物語だった。


『――しあわせだったんだ』


ここにあった、私が知っていた、私だった誰かの絵空事。
終わってしまったおとぎ話に続きはないし、その先を知る方法もない。


本当は、夢でもよかったけど。夢がよかったけど。
けれども続きを書けるのは一人しかいなかったから。ただ、それだけのこと。どうしようもなく惹かれてしまっただけのこと。


選ぶ権利は今、自分にあって、どうするかはもう決めた。



『――しあわせになりたかったんだ』


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