11:empty
「そういやアンタ、テムザ山に行くのが目的だったんだよな?結局、あんなところに何の用だったんだ?」
魔狩りの剣との戦いが終わり、成長したバウルの力を借りてフェローの元へと向かう道中でルノに声をかけてきたのはユーリだった。
普段はルノ相手には会話と言う会話はほとんどなく、けれども気まずさがあるでもない絶妙な距離感を保つ彼であったが、こういった大きな出来事のあとには機敏に周りを気遣い、会話をすることが多々あった。
基本的に面倒見が良いのだろう。兄貴肌と言うか、保護者枠と言うか。様々な年代、思想の凛々の明星が均衡を保ち続けているのには、彼の影響によるものが大きくあるように感じる。
「……別に、大した用じゃないさ」
「そうは見えなかったけどな」
どこか含みのある声音に、そう見えたのだろうかとルノは疑問に思う。
そうだとしたら、一体どのように見えていたと言うのだろう。ルノとしてはいつも通りに振る舞っていたつもりだったか、何かおかしなところでもあっただろうか。
少しの間記憶を探ってみたが、思いあたる節はなかった。
「あんた、以外と嘘が下手くそだよな」
「……初めて言われたよ」
そもそも、そんな話が出来るほど親しい人間なんていないか。
少し自虐的にそう考えて、けれどもすぐに思い直す。そう言えば一度だけ言われた事があったか。
思い起こすのはダングレストの鮮やかな夕焼けの中で不意に言われた言葉。そう言えば、ハリーは今どうしているだろうか。
「まあ、話したくねえことなら良いけどよ」
ぼんやりと黙っている間に、ユーリの中では言いたくないから沈黙していたと判断されたらしい。
まあそれでも良いかとそのまま話を切り上げようとして、けれどもなんとなく、誰かに話してみたくも思い、少し思案した後にどうにも話さない理由と言うのも見つからないので結局、ルノは口を開くことにした。
「知り合いが戦争に参加してたんだ。だから見たかった。それだけ」
聞いてもあまり気持ちの良い話ではないと思うが、どうしてだか伝えてみたくなった。理由を挙げるとしたら、やはり自暴自棄だろうか。
「あー……そりゃ、聞いて悪かったな」
「いや。もう良いんだ、済んだことだし」
自分でも不思議な気分だった。すっきりしたような、もやもやしたような。
「済んだことって…まあ蒸し返すようなもんでもないか」
「まあどうでも良いけどね。何がわかるわけでもないし」
「でも、ようするに墓参りってことだろ?」
「そうなるんじゃない」
結局はなんだかもうどうでも良くなってしまった、ただそれだけなのだと思う。
「花でも渡してやれば良かったね」
もうどうだって良いけれど。
「教えてくださいフェロー。私が何者なのか。本当にわたしが生きていることが許されないなら死んだっていい。でもせめてその理由を知りたいんです」
辿り着いた砂地で、フェローは
満月の子の力がヘルメス式魔導器の術式と同じく世界を害するものであることを語った。彼の言う忌まわしき毒と言う言葉の意味は、そこにあったのだ。
けれども、とルノは思う。けれども、そう、たった一人の力で滅びる世界なのならば、それはもうその時点で限界なのではないだろうか。それとも、そうと知って尚、諦めきれないのか。
フェローの真意などルノにはわからなかったが、そもそも理解しようと言う気すら湧かなかった。
それらはルノには関係のない事柄のように思えたし、何より、あれが人と
始祖の隷長との戦いであったのならば、尚更どうだって良いのだと、そう思ってしまった。
「その娘が力を使わないという保証はない」
「お前が世界とやらのためにあれこれ考えているのはよく分かった。けどな、なんでエステルがその世界に含まれてない?」
多くを守るためには、一つを切り捨てることも必要なのだとフェローは言う。その後も口論は続き、エアルの暴走を抑える方法を
凛々の明星で探すと言うことでどうにか話は収まった。
その凛々の明星に、自分は含まれているのだろうかとルノは少しだけ疑問に思う。結局ここまで付いてきてしまったが、どう言う関係と言うのが適切なのだろう。ギルド員でもなければ、仲間というには距離が遠い。辛うじて友人と思えるのはカロルぐらいだろうか。
「死んだっていいなんて二度と言うなよ」
「…ごめんなさい」
別に、死んだっていいと思うけどなあ、と口には出さず、心の内で吐き捨てる。
それはエステリーゼだからどうと言うことではなく、本人がそうしたいのであれば、望んだ結果ならそれで良いとルノは思っていた。
そう、だから、別に良いのだ。死んでしまったこと自体は、本当に。そうして今それを望んでいるというのなら、それで良い。それがどんな形だとしても、望んだのならば仕方ないのだ。ルノにそれを止める権利はない。
それでも許せないのはきっと、もっと別のことが原因で。……いや、どうなのだろう。実際自分は恨んでいるのだろうか。どうにも、憎いというのは少し違う気がする。
「はぁ……どうなるかと思ったよ」
「あーんなデカブツ相手によくまあ話だけで済んだねえ。おっさん心臓がどうにかなりそうだったわ。ねえルノちゃん?」
「そうですか。良かったですね」
「……ルノちゃんっておっさんに対してだけ冷たくない?」
「気のせいじゃないですか」
いつものような軽愚痴を叩きながら、ルノと
凛々の明星の一同はエアルの暴走を抑える術を知る為、クリティア族の故郷、ミョルゾを探し歩き出す。
top