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ノードポリカについてすぐ一同と別れを告げたルノは、宿を取り街へと繰り出した。
必要最低限の荷物だけを手に、目的地とこの街の情報を集める。闘技場都市として栄えるこの街は賑やかであまり好ましくはないが、情報収集はしやすそうだった。
ある程度の情報を集めてから宿に戻ると、真正面の廊下を悠然と歩くレイヴンと遭遇した。あまりにも早い再会に眉をひそめそうになったが、同じ街にいるのだから宿ぐらいは被ってしまうだろう。鉢合わせするとまでは思わなかったが。
軽く会釈をして脇を通り過ぎようとしたルノだったが、通りすがり側に腕を掴み引き止められ、嫌そうなルノの顔も気にせずにレイヴンはそのまま一方的に話を続ける。
どうやら彼らは砂漠へ向かうらしい。一同の探すフェローという魔物の目撃情報がコゴール砂漠にあるそうだ。
奇しくも同じ目的地であることから、ルノは渋々と、レイヴンは嬉々としてお互いの情報を交換することとなった。
「そいや、ルノちゃんってノードポリカに用事あるんじゃなかったっけ?なんで砂漠の情報集めてるのさ」
「正確には、テムザに行こうと思ってたんです」
「テムザ山〜?なんでまたそんな辺境に……」
「知人が昔、そこにいたんで」
「ふ〜ん……」
「……そんなことより、いい加減その呼び方を止めて下さいよ」
どう言うわけかレイヴンは、ルノのことをふざけた敬称を付けて呼ぶ。
船にいる間、ルノは何度も注意を促したが、一向に改善されることなくここまで来ている。いっそ修正するのも面倒だが、不満なものは不満だ。
「えー、良いじゃない別に。細かいこと気にしない気にしない!」
「…………」
これまでの言動から考えて、レイヴンが改める可能性は低い。いっそ潔く諦めるべきなのだろうか。
暫くの沈黙の後、ほどなくして集まった残りのメンバーが同じ一室にいる二人を見て驚くのを、ルノは少しだけ気分よく見ていた。
翌日の昼下がりになって、
凛々の明星の一同とルノは砂漠を訪れていた。
宿に全員が揃った後、話し合いの末にルノは再び彼らと行動を共にする事になった。
一人で砂漠を超えるリスクと彼らの旅に同行することを天秤にかければ、後者を取るのは必然だろう。
暑い場所は得意ではなかったし、途中でのたれ死ぬよりは、死ぬ前に助けてくれる
人間がいたほうが良い。たとえ彼と行動を共にすることになったとしても。
砂漠行きが決まってからは成り行きで闘技場、それからカドスの喉笛にまで同行した。そこで“
海凶の爪”と“
遺構の門”に置けるギルドの裏事情を知らされ、エアルクレーネを発見したり、ノードポリカを出てからも様々な事情に巻き込まれている。
海凶の爪──イエガー達に関してはルノも思う事がないでもなかったが、思考を切り替え知らないふりをした。
「……」
短い時を共にした二人が気付かなくとも、今も尚元気でいてくれるのは、そのことだけはルノにとっては救いだ。
──変わってしまうのも、変わって行く姿を見るのも嫌だけど。
やはり彼らに同行するのは軽率な判断だったかと、自身の選択を恥じ、今までに巻き込まれた数々の厄介事を思い起こすルノの前方で、凛々の明星の一同はそれぞれが好きなように、自由に過ごしていた。それに思わず出かけたため息を飲み込んで、ルノは薄く目を細める。
過酷な旅にも関わらず、どこか楽しそうな姿は遠い昔になくしてしまった景色を思い起こさせた。
暑さに飛びそうになる意識と、どんどん逸れて行く思考をつなぎ止めるルノの頭上では、今日も憎々しい太陽がギラギラと輝いていた。
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