それはあまりに辛く

封印のきろくの研究は思いの外難航していた。

魔物は非協力的で、なんなら隙を見せればすぐにでもクルークの身体を奪おうとしてくるからほんの少しの油断も出来ない。
幾度かその計画を台無しにしたおかげか今はまだ大人しくしているが、いつどうなるかもわかったものじゃなかった。あるいは今のこの沈黙自体、水面下で動いているが故の事態なのかも知れない。わからない。疑心暗鬼になる。

この本には強い魔力が込められている。
それは魔物の力によるものだが、それ以外にも本自体に魔法がかけられていると言うことにある時クルークは気が付いた。
魔物は自らの意思ではなくこの本に封印されている。ならばその封印の魔法を発動するだけの魔力がこの本には宿っていると言うことになる。そうして、一つの魂を封じられるだけの魔力は生半可なものではない筈だ。

「この魔力を、どうにか利用することができれば……」

クルークは、かつて身体を奪われた時のことを思い起こす。封印のきろくの中、魔物に代わり封じられたクルークは魔物がいたであろうその場所を見た。

そこには何もなかった。ただの暗闇だけが広がっていた。
身体を奪われてすぐに暗闇に飲まれたクルークは、けれど封印が緩まっていたおかげかすぐに外の様子を伺えるようになった。それでもあの暗闇の恐ろしさを、今でもずっと覚えている。あの魔物は、ずっとその暗闇にいたのだろう。クルークが封印を解くまで、ずっと独りで。

記されていたことが本当なら、あの魔物は何十、何百、あるいは何千とあの孤独の中にいたことになる。それはあまりに辛く、哀れなことにすら感じた。

クルークの目的は強くなることだ。そうしてその為に、封印のきろくの力が欲しい。

この本には強い魔力が込められている。それはおそらく、魔物を封じるためのもので。クルークは強くなりたくて。だから。

封印を解くだけではクルークはクルークの身体を奪われてしまう。けれどもしも、その封印に使われている魔力そのものを引き出すことが出来たなら。それならば、どちらもあの暗闇に閉じ込められることなく力を得ることが出来るのではないだろうか。


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