私はただ笑っていた
「なんだ?一体何が起きている…?」
『そうだなあ不思議なあ。あははははは』
何をしていたのか正しく理解していたわけではないが、どうやらもう一方の作戦は失敗に終わったらしい。
暗い本の中で外の音を聞きながら彼は一人で唸ってる。思えば封印を解くためのアイテムも以前の遺跡でバラバラになってしまったし、初めから上手くいくはずもなかったのだろう。穴だらけの計画が生んだ、当たり前の失敗だ。あれはもう少しじっくりとすべきだった。急ぐから間違う。間違うから失敗するのだ。それがどこか愉快で、とても可哀想に思えた。
『まあせいぜい頑張ってくれよ、地道にいけばどうにかなるだろう』
空っぽの頭で空っぽの言葉を投げかける。実際のところ、どうにかなってもならなくてもどちらでも良いのだけど。いやどうだっただろうか。バラついた思考は、正しい私の意思を隠してしまう。
くるくると機嫌よく周囲を回り、考えて、けれどもすぐにどうでもよくなった。
外の音が聞こえる。もう一方は黙っている。私はただ笑っていた。
ひどく静かだ。死んでしまえば良いのに、どうして生きているのだろうな。私もお前も。
『まあ、ほら、お前には私と違って次があるさ』
失敗し続けてくれれば良いと思う。だけど努力は報われて欲しい。
コイツがどこにもいけないのはすごく嬉しかった。だから今日は気分が良い。それは事実だ。
なんだったか、もう覚えてないけど、一人じゃないってのはいいよなあ。寂しいのは嫌だよなあ。
『一緒におちてくれよ。一緒にいて、それでいいじゃないか』
「くそっ……まあいい、次の手を考えて……」
『……ああ、そうだった。聞こえないんだった』
途端にすっと冷え切った声も心も、どうあっても彼には届かない。
彼がぶつぶつと独り言を話し出す。その音は私の耳には聞こえるのに、彼の耳には届かないのだ。
暗闇で目を覚ます前のことを私はもうほとんど覚えていない。思い出したくもなかった。目が覚めてからはとにかく一人きりの暗闇が恐ろしく、怯え続けていた。そこに彼がやってきて、私は一人ではなくなった。だからもうそれでいいと思えた。そんなことは大嘘だ。
『どうしたんだ?どうしたかったんだ?お前はその答えを知っているのか』
俯いて考えこんでいる頭に手を伸ばそうとするが、そもそも私には伸ばす腕がついていなかった。悲しいものだ。
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