そこに答えがなくとも

私ともう一方が一度外に出てからしばらく。クルークと言う名を持つ少年は、相も変わらず封印のきろく我々を手にしている。少年がその本を手にしている限り、もう一方には希望があった。
手放してしまえば良いのに。声は届かず、聞こえない。それなりの時間を共にした少年の考えは相変わらず理解できなかった。

『今日は一体どこにいくのだろうなあ』

聞こえない声をまた呟いて、認識できない身体で後を追う。
どうやら完全な形とまではいかずとも、我々は少しばかり外に出ることができるようだった。もう一方は魂と言う形で。私は、私のこれはなんだろうな。言うなれば幽霊と言うものだろうか。なんともまあ皮肉めいた話である。

無色透明な身体は、それでもそれが私の身体だと私だけが理解できた。見えない腕も、見えない足も、見えない顔も、私だけが知っている。私だけが聞いている。そんなのは存在しないのと同意だ。

あの双子の幽霊にすら認識されないのだから、似ていると言うだけで正確には幽霊ではないのだろう。ならばなんなのか、と問われても答えることはできないけれど。問われることすらないのだから、気にする必要もあるまい。

『なあお前、次はどうするんだ?』

舞台を見る観客のような気分で、少しばかり弾んだ声で問いかける。この場合は観戦者の方が例えとしてはが正しかっただろうか。

『どっちだと思う?まあ、答えられないだろうが』

問いは必要だ。重要だ。そこに答えがなくとも、考えるという行為がそこにある。

しばらく様子を観察していると、もう一方はどうやら時間をかけてゆっくりと少年の肉体を奪うつもりらしかった。そうしてその後に本来の肉体を取り戻すつもりだろうか。嗚呼、なんと恨めしい。少しぐらい私にくれたっていいじゃないか。

『……まあ、なにはともあれ、まず彼に必要なのは魔力だな』

封印が解かれた際、あれ自身が持っていた魔力のほとんどが空になってしまった。肉体を持たないあれにとっては、何をするにもまず魔力が必要になる。
手取り早いのはやはり、少年の魔力だろう。幸いにも質も量も申し分ない。上手くいくといいが、失敗して欲しい。応援してるよ。そうしたいとは思ってる。

ばらばらと散らばる思考はいつも通りで、私はいつも通り私であった。

ない喉を鳴らして笑うと、ゆらりと見えない体が膨張したような気がした。


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