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恐怖から解放されたその夜は、ホグワーツ全体が宴一色に染まった。
ようやく訪れた安息を、誰もが存分に楽しんでいる。
話題の中心であるハリーとロンは、談話室でも大広間でも皆にもみくちゃにされていた。
せがまれて同じ話を何度も何度もしていたが、本人たちが楽しそうだからそれでいいのだろう。
もちろん私もお祭りに混ざり、バタービールを飲みながらそれを聞いていた。
インディジョーンズじゃねえか。もしくはハムナプトラ。
などと妙なマグルツッコミを内心で入れつつ。
「ロックハートが逆噴射で吹っ飛ぶとこなんか、最高だったぜ」
ロンの話は誰かさんと違い、整理されていてとても面白かった。
「見たかっただろ、レイも?」
もちろん、と私は答え、祝福の意味で彼にお菓子を投げてよこした。
宴の最中に、彼が医務室にいることはなんとなく聞いたが、まったく会いに行く気はなかった。
そのうちダンブルドアからロックハートが学校を去ることが発表された。
彼との縁は完全に切れたに等しい。
あれはフィクションだった。
私は数時間前の出来事をそう捉えることに決めていた。
嘘、虚構、作り話、そういうもの。
この1年あまりに苦労が報われなかったから、自分に救いがあるように現実を捻じ曲げたのだ。
私が作った、都合のいい非現実。
そうに違いない。
そう思わなければ、心に立ったさざ波は静まらなかった。
もはや彼はいないのと同然で、怒ることも責めることもできない。
だったら、作り話にしてしまおう。
フィクションであれば。
最後に投げかけられたあの思いに、私が返事をする必要は、ない。
その日から学年を終えるまで、彼のことを一切口にすることはなかったと思う。
友人たちも、もうここに居ない男の話を、嫌っていた当人にわざわざもちかけてくることはない。
距離を置くことであの出来事は白昼夢と同じようなふわふわしたものに変わり、記憶も徐々に薄れていった。