▼ 隙あれば恋
本当にぺらぺらとよく喋る。
これほど自慢話だけで話題を途切れさせないとは。
呆れを通り越して逆に畏敬の念すら覚えるほどだ。
尊敬ではない。畏敬だ。
できることならば敬してやるから遠ざかりたい。
そんなイライラする感覚ばかりに気を取られていたのだが、ふと気がつくと、彼はまっすぐこちらを見つめていた。
「――なにか?」
あまりの怒りに、内心が表に出てしまったのか。
ひやりとしながらとりあえず下手に聞いてみる。
彼はただ、にっこり笑った。
それはあまりにも完璧だった。
欠けたところなど何ひとつ見つからない。
本来そうあるべき風景。
時間と場所の概念がどこかへ消えた。
あるのはただ、勿忘草色の瞳を持つ彼と、それに吸い込まれた私。
――そのまま黙ってろ、イケメン野郎。
私はひっそりと願った。
――そうしたら私は、幸福なままでいられる。
しかし静かな時間は、そう長くは続かなかった。
「君が聞きたそうにしているから、私も嬉しくなってしまいましてね!」
馬鹿みたいに明るい声が、私を引き戻した。
再びその場を支配した現実には、うんざりする長話がもう少し続きそうだという新たなおまけがついていた。
あっという間に脳内に並び立つ罵詈雑言。
誰が聞きたいと言った。
逆だ。帰らせろ。
どこまで自分に都合のいい勘違いをしやがる。
いっぺん死んでこい。
いや、死んでも治らんかもしれんが。
そんな男にたった一瞬でも見とれてしまった自分の不覚に、心の底から後悔しながら、その日の放課後は過ぎていった。
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