小説 | ナノ


▼ 12. 一日パパラッチ

 

 夕暮れ時の室内には、妙な緊張感が漂っていた。
 部屋の主は表情をぴくりとも変えなかったが、それが逆に部屋に呼び出された生徒の恐怖感をあおった。


「読め」

 手に持った羊皮紙を突き出し、低く押し殺した声でスネイプは言う。
 負けるもんかと自分に言い聞かせ、レイは受け取って、指示通り読んだ。

「えー、

『スネイプの歩く速度は分速120メートルである』
『しかし変にリズム感が悪いため、15分に1回つまずく』」
「読むな!!!」
「読めとおっしゃったでしょう」
「声に出して読むなと言っている!」
「『一回の休み時間につき平均3.2人減点する』!
『やたら猫や虫に好かれ』
 …わかりましたやめますからその杖置いてください」
「我輩の寛大さに感謝したまえ」

 とは言いつつも、杖から手を離す彼の鼻息は荒かった。


「どうしてこんなことをした」
「パパラッチなんですよ、何でも発表しなきゃ」
「お前はいつからパパラッチになった」
「今日からです」

 堂々レイは言う。

「朝からパチパチ不審な音がしていたが、あれはお前か」
「はい」
「廊下を歩いていると誰かがつけているような気配がしたが、あれもお前か」
「そうです」
「授業中熱心に話を聴いているかと思ったが、あれは観察していただけか」
「そのとおりで…いえ、聞いてました。熱心に。授業を」
「もう手遅れだ。10点減点」

 しまったというような顔をしたが、彼女は負けじと食い下がる。

「減点も罰則も受けますから、どうせなら最後までやらせてくれません?」
「最後?」
「インタビューに成功したらパパラッチとして一人前じゃないでしょうか」
「質問に答えれば付きまとうのをやめる、と」
「はい」
「…やってみろ」


 * * *


「好きな雑誌は?」
「あると思うのか」
「『週間魔女』、と。その髪型はどこの美容院ですか」
「伸びたら適当に自分で切る」
「なるほど、ロックハート先生に教えてもらった所」

 回答する意味がない。

 その後も同じようなやりとりが続いた。

「やる気があるのかね?」
「だって私パパラッチですよ?」

 平然と言う少女は、羊皮紙に今までの回答をまとめ終わってから、

「最後の質問です」

 と言った。



「好きなタイプは?」
「答えたくない」
「そこをなんとか。そうだ、容姿だけに限定すればどうですか」
「お前だ」




 沈黙。




「…先生、私がウソ書くからってふざけてもらっちゃ困ります」
「我輩は真実を述べたまでだが」
「またまた。マジメな顔で冗談言っちゃって、もう」

 スネイプは右手を上げた。

 その手には杖が握られており、勢いよくドアが閉まる。
 カギが掛かる無情な音。


  ガ チ ャ ン


「…マジですか」
「さて、取材が終わったのだ。取材料を戴くことにしようではないか」

 冷や汗をかくレイを余所に、めったに笑わない男はここぞとばかり妖しげな笑みを浮かべた。




 良い子のみんな、覚えておきましょう。
 パパラッチは危険な商売です。




End. 

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