▼ 8.歌わせる
なんとかレイは鬼の棲家、スネイプの研究室にもぐりこんだ。
なだめ、すかし、だまくらかして、ここに居座ることも(半ば諦めたような感じで)許可してもらった。
ここからが問題である。
歌えますかと訪ねたら、そういう無用なものは地の果てに置いてきたとか言いかねない。
じゃあどうやって歌わせようか。
いやその前に、何を歌ってもらうかだ。
リクエスト?
ネタ的にはアイドル系。
最近のやつでもいいけど、ここは逆に『セーラー服を脱がさないで』とかでもいいんじゃないか。
いろんな意味で破壊力抜群。しかもこの人セーラー服着てないけど。
…いや、知らないから無理か。つうか知ってたら逆にひくよ。
イギリスの曲なんて知らないしなあ。
ましてや魔法界なんて…
あ、一曲だけある。
大ヒットしたから、さすがの私でも知ってるぞ。
「なんでしたっけ、あの曲」
「曲?」
「セレスティーナ・ワーベックの…あ、そうそう!『恋は変幻自在』!」
スネイプが恋の歌を歌うなどという想像をして、おもろい予感にテンションが上がりかけたが、次の瞬間致命的なことに気づいた。
「メロディどんなのだっけ。忘れた」
自分が知らなければ教えられない。
「一時間も居座った挙句に何を言うかと思えば…」
「あれなんですよあれ、喉まで出かかってるのになあ気持ち悪い。えーっと…」
「♪〜」
「!!!」
う た っ た 。
「これかね」
「そ………れでス」
「分かったらさっさと出て行け」
スネイプはなんでもなかったかのように仕事に戻る。
そうか、私でも知ってるほどの知名度なら、スネイプが知っていてもおかしくないのか。
にしても合わない。イメージがとことん合わない。
せっかくおもろいシチュエーションが実現したのに、彼女は笑わなかった。
その代わり、胸を押さえてうずくまった。
「具合でも悪いのか。道理でさっきから不可解な言動を…」
「す」
「す?」
「素敵過ぎて鼻血が…!ちょっと!その腰に来る低音は犯罪!犯罪ですよ!!」
「…頭の具合だったか」