▼ 7.襲う
男と少女がこの部屋にこもってから、1時間近く経つだろうか。
土気色の肌には、小さく、しかしくっきりと、
赤い痕が散らばっている。
それに気づいてスネイプは小さく舌打ちした。
…よくも目立つところにつけてくれたものだ。
「お前のせいだ、コーリ」
鋭い目つきで少女を見やる。
「先生が逃げるからですよ」
レイの幾分高い声が、フフ、と小さく笑った。
余裕が感じられるのは、こんな状況を幾度も経験してきているからだろうか。
その年齢にして。
…イギリスでは考えられないことだ。
「ほら…逃げると汗をかくでしょう」
確かに、男は珍しく汗をかいていた。
ローブも上着も脱いでいるというのに、首筋や額がうっすら湿っている。
さきほどから休みなしで続いている、激しい運動のせいだった。
「その汗にひきつけられて、余計に追いかけたくなるんです」
「…いい迷惑だ」
逃げてもどうにもならないようだ。
ならばいっそ、自分から。
「覚悟はいいかね」
男は口の端だけ持ち上げて、暗く笑った。
「全て終わるまでは帰さん」
「ええ、もちろんそのつもりです」
少女も薄く笑った。
何もかも分かっているような、大人の笑みだった。
「で…あと何匹だ」
「確か10匹…ぐらい」
「ちゃんと数えておけといっただろうが!ホグワーツで大繁殖したらどうする気だ!!」
レイがこの研究室に蚊を放してから、そろそろ一時間になる。