▼ 2.ひっかけクイズ(成功編)
「…失礼します」
スネイプはレポートの採点中だったが、並々ならぬ気配を感じ作業をやめた。
「なんだね、コーリ」
「ちょっと、ご相談が」
よく見ると並々ならぬ、どころではなかった。
目を見開き、まばたきをしていない。全身に力が入っている様は明らかに緊張している。
鬼気迫るというほうが正しい。
「先生にしかお願いできないことが、ありまして」
「…言ってみなさい」
気圧された男は、思わず言葉を促した。
レイは深呼吸して、静かに話し出した。
「私が今から言葉を言いますから、それを繰り返して言って下さい」
「…は?」
「先生が間違えたら私の勝ちです。全部間違えなかったら先生の勝ちで」
「待ちたまえ。それは相談か?」
「勝負です」
「相談とさっき言わなかったか」
「言いません。はい、開始」
レイはパチンと手を打った。
「先生、こんにちは」
「…“先生、こんにちは”」
「なんだ、やればできるじゃないですか」
「“なんだ、やればできるじゃないですか”」
「あかまきがみあおまきがみきまきがみ」
「“あかまきがみあおまきがみきまきがみ”」
「なかなかやりますねえ」
「“なかなかやりますねえ”」
「ジュゲムジュゲムゴコウノスリキレ…ああ過去に一回使ってた。やめよう」
「“ジュゲムジュゲムゴコウノスリキレ…ああ過去に一回使ってた。やめよう”」
明らかに何か画策した瞳が、一瞬スネイプを見た。
レイは深呼吸した。
「わたしはセブルス・スネイプ」
スネイプは、とんでもない勢いで目を見開いた。
「目の前に居るレイ・コーリのかわいさにやられ、今日からグリフィンドールびいきになることにした」
が、なんとか持ち直し、聞こえるか聞こえないかの小ささで繰り返した。
「………“わたしはセブルス・スネイプ。目の前に居るレイ・コーリのかわいさに……やられ…今日からグリフィンドールびいきになることにした”…」
「そんな…先生、わたしたち教師と生徒なのにっ」
「“そんな…先生、わたしたち教師と生徒なのにっ”」(下を向きながら)
「このゲーム、面白いですね(ニヤニヤしながら)」
「“このゲーム、面白いですね”」(こめかみをピクピクさせつつ)
レイはニヤニヤ笑いをやめ、素の顔で言った。
「あれ?今で何回ぐらいやりましたっけ?」
スネイプは怒りで蒼白になった顔で言った。
「確か8回だ」
「はい負けー!」
「は?」
「繰り返せって言ったじゃないですか。私の勝ちです!」
一瞬、時が止まった。
ヒャホーと踊り喜ぶレイの横でスネイプはじわじわ動きを解凍させていく。
その熱の原因はもちろん、怒りだ。
「…さて、気は済んだかね。ではこちらの気を晴らさせていただこう」
低い声は震えていた。
ヴィブラートではもちろんない。
「もう一度勝負だ。お前は我輩の言うことを繰り返さなければならん」
…その後の経過は、推して知るべし。
翌日の彼女が、魔法薬学の出席を断固拒否したことだけは伝えておこう。
End.
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