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▼ Tea 1 (Griffindor)

 ※ Secret Admirer の後日談 




 スネイプは自室の壁を見渡した。
 一面はむき出しの石壁。
 ドアを除いた二面は、天井までの本棚と、ホルマリン漬けの標本。


「楽しいかね。こんなところでティータイムなどと」
「ええまあ、それなりに発見が色々」

 カップを口に運んでからレイは言った。

「先生、昨日髪洗ってないですね。ふーけーつー」
「やかましい。徹夜だ」

 一刀両断。

「どうせ観察するならそこまで読み取れ」
「あー。目の下の隈はそういう」
「読み取っているなら会話に生かせ!カンに障る言い方をしおって!」

 怒りの台詞はあまりにテンポが良すぎたせいで、彼女にはツッコミとしか受け取られなかった。
 目が輝きながらこのように物語っている。


…ああ、いつも通りの展開。
“お約束”っていいね…!


 先ほどからずっとこの調子である。
 彼は豆腐にかすがいを全力で打ち込んでいるのだということに、まだ気づいていない。
 ただ、自分でこの状況を引き寄せたという後悔だけは充分過ぎるほどしていた。


「にしても、どうして私がこんな場所に」

 10分後、ようやくお約束の会話に飽きたらしいレイが聞く。

「お前が選んだからだろうが。他にもっとふさわしい場所はあった」
「じゃなくて。スネイプ先生とお茶する機会がどうして訪れたのかってことですよ」

 それまでレイを睨んでいたスネイプの視線は、途端に逸れた。


 テーブルの上にはやわらかい色合いのミルクティーと、香ばしいスコーン。
 おそろしく自分の研究室に似合わない。


「…本来ならば、あり得んな」
「でしょう?先生からグリフィンドール生をお誘いだなんて」

 事実は確かにそうなのだが、言葉で聞くと受け入れられない。
 どうしても眉間に皺が寄ってしまう。


「これは何か重大な理由があるのだろうと」

 思うだろうな。ああ、誰でもそう思うだろう。

「で、いったいどんな?」


――言いたくない。


 グリフィンドールのメガネ(Jr)を褒めるのと同じぐらい嫌だった。

 しかし自分で誘ってしまった以上、言わないわけにはいかない。
 重苦しいため息と共に、彼は改めて自分の行動を後悔した。
 本日何度目になるだろうか。


「2月14日」
「バレンタインデー?」
「…と対になる日として、日本にはあるのだろう、3月14日…」
「ホワイトデー?」
「…そうだ」

 レイは目を丸くしている。
 まさか目の前のコウモリ男から、そのような単語が出てくるとは思わなかったに違いない。

「あ、今日でしたっけ」
「覚えていないのか?あれだけ等価交換だ何だと騒いでおきながら」
「あのフレーズが言いたかっただけなんで…え、ちょっと待ってください」

 レイの手は落ち着きなくカップをソーサーに戻した。


「先生にチョコレート、贈ってませんよね?」
「銀紙に包んだ四角いウイスキーボンボン。覚えはないかね」
「い…いや、まったく?」

 彼女の目は一瞬泳いだ、ようにも見えた。

「まあいい、否定したところでお前しか心当たりはおらん」

 スネイプは腕を組んだ。

「我輩がそれを受け取ってしまったことは事実だ。たとえ不注意不運によってどうしても拒否することがかなわず、我輩が致し方ない状況であったとしても、だ」

 彼は自分にはどうにもできなかったことをやたら強調した。


「…で、これが、3倍返しですか」

 レイが聞くと、まるでもの凄く苦い青汁でも飲んだ顔をしてスネイプは黙った。
 それが答えだった。

「うわーお、先生超律儀!」
「…ニホン式で贈られたのなら同じ流儀で返すべきであろう」
「義理堅いっすねー」

 レイは笑っている。
 ニコニコというよりニヤニヤ、だ。

 彼はイライラしてきた。
 こういう部分が嫌いなのだ。グリフィンドールめ。


「もう充分返しただろう、終わりだ」
「もうちょっとまったりさせてくださいよ、まだ一杯目も終わってないのに」

 レイは再びカップを持ち上げた。


「それで先生」

 もう片方の手で、黒いカードをちらつかせながら。




「来年は何が欲しいですか?」




「…お前はもっとイギリス式というものを理解しろ、コーリ」

 風情も何もないではないか。
 スネイプは長いため息をついてから、呆れたように言った。





End. 

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