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▼ 気まぐれアストロロジィ

 

 私の部屋には本がたくさんある。

 まず私の蔵書が多いのだが、同室であるハーマイオニーの蔵書はそれに輪をかけて多い。
 それから二人とも図書館から必ず本を(制限数ギリギリまで)借りているし、友人から借りた本まで積んであるのだ。

 はじめてそのことに気付いたとき、本がある風景が大好きな私は

「…幸せ」

 と知らず呟いていた。

「そうね、最高だわ」

 と答えてくれた彼女こそ、私にとって最高のルームメイトだろう。



 その山積みの本の中に、ある日見慣れない本が混じっていた。
 目立てばそれでいいとでもいうような、鮮やかなピンク色の光沢あるカバーがかかった薄い本。
 その表紙にはこう書いてあった。


『1日3分心に栄養――これであなたも恋愛体質』


「ん?」

 と私が首を傾げて一言発するとすぐさま、その本は手元から奪い取られた。
 この部屋は二人部屋だ。となると犯人は彼女しかいない。

「借りたの?」
「ラベンダーが教室に忘れていったの」

 ハーマイオニーは何でもないふりを装っていたが、顔が心なしか赤かった。

「あとで返そうと思って、とっておいてあげただけよ」
「別に隠さなくてもいいのに」

 私はにやりと笑った。恋する乙女をひやかすのはどうしたって楽しい。

「ちょっと見せて。中身気になる」
「どうってことないわよ」
「読んでるんじゃん」

 彼女は今度こそ真っ赤になって、私に本を手渡した。

「えーと」

 内容は占星術を原型がなくなるほどふにゃふにゃに柔らかく煮込んだような、マグルの占い本に毛が生えた程度のものだった。
 ただ、星座のマークに杖をあてると内容が浮かんでくるというのはいかにも魔法界らしい。
 こういう仕組みだけなら日本にいたときインターネットで見たけど、それを普通の本でできちゃうのがここのおもしろいところだ。

 その中にはこんな項目もあった。


『運命を味方につける・今週の彼とあなた』


 まるっきり雑誌の占いコーナーじゃないか。

「今週の、読んだ?」
「いいえ」

 今回は嘘ではないようだ。

「占いなんて信じないことにしてるの」
「でも見ちゃうんだね。気になるのは分かるけど…えーと」

 ハーマイオニーの星座のところに杖をあててみた。


“今日のあなたはまさに恋愛体質!気になっているのにつれない彼も、女としてみてくれるでしょう”

「信じてもいいんじゃない?」
「…お遊びよ、そんなの」

 といいつつ、まんざらでもなさそうだ。

「こういうのは良い結果のときだけ信じればいいんだって」

 私の話に返事をせず、お返しといわんばかりにハーマイオニーは私の星座に杖を指した。


“今日のあなたは、あまり運気がよくありません”

「へえ、そうなんだ」


“たとえば道すがら誰かが自分の悪口を言っているのを聞いてしまったり、先生に怒られたり”

「おー!当たってる!」

 ま、マルフォイの嫌味とスネイプのお怒りなんていつものことですけど。


“でも一つだけ、いいことが”

「なになになに」


“なんと運命の人と出会っているのです。肌が触れ合ったのは今日が初めてだ、という人はいませんか?”


 思わず動きを止めてしまった。

――いる。



“その人は、あなたと一生かかわることになる大切な人となるでしょう!”



「…バカバカしい。そんなの、自分が関わっていけば済むことじゃない。単なる暗示と同じだわ」

 これだから占いって、と流れるような彼女の文句を聞きながら、私は考えていた。

 暗示と同じ、確かにそうだ。
 けれど、今日の出来事を思い返してみて、


「…信じてみようかな」


 そんな気になっていた。

「本気なの?」
「良いことは信じるって言ったでしょ」




 私が失敗したことに、いち早く気付いた。

 おまけに、誰にも気付かれないよう背中に隠していた手をわざわざ前に引っ張り出して、

ーーこの火傷で、君の苦手なこの配合も少しは身につくだろう。
ーー五感と共に覚えた記憶はなかなか薄れないというからな。
ーーもっとも、君が馬鹿でなければの話だが。

 周りに聞こえるように、嫌味たらしい声でそう言った。
 見上げると彼は、お見通しだ、という風にこちらを見下ろしていた。

 大勢の前で理不尽に怒られたという状況だったと思う。
 その状況はもちろん嫌だったけれど、


 …理不尽だけど、人を見てない訳じゃないんだ。


 そう気付いたとき、
 ほっとしたような、くすぐったいような。
 そんな気持ちが少しだけ胸をよぎった。

 占いというよりは、そんな風に感じた自分を信じてみようと思ったのだ。




「それで、誰だったの」
「教えなーい」
「なによ、自分はからかったくせに」
「だからからかわれるのが嫌なんですー」

 まばゆいだけだったピンク色の表紙が、今ではなんだか元気をくれる色に見えた。



End. 

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