小説 | ナノ


▼ ペナルティ


「ごめん!」
「ごめんなさいっ!」

「日本ではねえ、お詫びするときは胸の前で手を合わせるの」

 レイが言うなり、瓜二つの二人は同時に合掌した。


「ごめんっ!」
「ごめんなさい!」

「そういえば頭も下げる」

 双子の顔は勢いよく下降し、赤毛に隠れた。


 今度の台詞は二人同時にハモった。

「「ごめんなさい!!」」

「何度も言ったって怪我は治らないけどね」

 自分が誘導していた節もあるくせに、レイはこともなげに謝罪をいなした。


「どうしたら許してくれるんだよ?」
「俺たち、本当に悪いと思ってるんだぜ?」

 どうやらそれは本当らしい。
 お辞儀の姿勢からレイを見上げたフレッドの眉は八の字だし、ジョージは口をひん曲げている。


 普段の彼らは、もちろんこんな間柄ではない。
 レイと彼らはよくつるんでいる悪戯仲間だ。
 今回双子の仕掛けた悪戯が予想以上に大規模に爆発し、レイがとばっちりを食らってしまったのだ。


 医務室のベッドの上から見下ろしていた彼女は、何も言わずに腕を持ち上げた。
 ぐるぐる巻かれた白い包帯を見たとたん、双子は顔をくしゃくしゃにゆがめて苦悶した。

「ああっ!」
「なんてことだ!」

 布団の下に隠すと、彼らはなんとか我を取り戻した。

 その瞬間、もう一度腕を上げる。

「ああっっ!ごめん!!」
「ほんっとうにごめんなさい!!」

 もはや半泣きで頭を下げた双子に、レイはニヤリと笑った。
 彼らには見えなかったが、明らかに楽しんでいるのだった。




「よし、もう満足したから、許す」

 レイは腕を布団に隠しなおし、気持ちを切り替えるように大きく深呼吸した。

「許すけど、貴重な休日を潰した責任は取ってもらいますからね」
「もちろんだ!」
「レイのためなら何なりと!」
「じゃあ、ホグズミードに行ってチョコレート買ってきて」
「仰せのままに!」


「バレンタイン用のカードもね」


 なんとか償いができるらしいと勢いを取り戻した彼らは、その一言で固まってしまった。


「バレンタイン?」
「そうだよ、もう明後日じゃない。今日準備しとこうと思ってたの」
「そのカード…誰かに、あげるの?」
「カードってのは誰かにあげるために買うんでしょう。…そうね…予備も含めて2、3枚ってとこかな」
「…ゾンコの特製カードだよね?」
「何いってんの、ハニーデュークスの、思いっきりバレンタイン向けのやつよ」


 双子は口だけをあんぐりと開けた。

 バレンタイン・カードってのは、名前こそはっきり書かないが、本気の愛を伝えるためのものだったはずだ。
 ゾンコのいたずら店にある、開くとイカスミが吹き出たり、5分間しつこくキスしてまわるカードならともかく。


「ああそれから、これはあくまでペナルティだから」

 レイはにやりと笑って、続けた。

「私からなんて本当の理由言っちゃ駄目だからね。彼女にですか、とか聞かれたら
『いいえ、僕ら、お互いのために送るんです』
って言いなさいね」


 ブラコンと噂を立てられるか、ホモと噂を立てられるか。
 もしかしたら両方かもしれない。
 どれにせよ極道な方法であるのは間違いなかった。


「レイ…さすがにあんまりじゃないか?」
「できないっていうの?」
「い、いや、大丈夫!朝飯前さ!」

 腕をピクリと動かす気配を見せたのを見て、彼らは慌ててとりなした。

「そうよね、天下に名だたるウィーズリーツインズだもんね」
「当たり前さ!じゃあ行ってくる!!」


 裏返った声で返事した彼らは、ベッドの足に脛をぶつけたり押して開けるはずのドアを引いてみたりしながら、やかましく部屋を出て行った。


* * *


 抜け穴のある隻眼の魔女の像へ向かいながら、双子はとぼとぼ歩いていた。

 別にホモ疑惑が原因で動揺しているわけではない。
 …確かに嫌なことは嫌ではあったが。


「カード、だってよ…ジョージ」
「まいったなあ、フレッド」

 数歩進んで、立ち止まる。

「気がすすまないな、相棒」
「まったくだぜ」
「にしても、うかつだったな。今年も誰にもやらないと思ってたのに」

「…なあ、フレッド」
「…言いたいことは分かるぞ、ジョージ」

 彼らはお互いの目をちらりと見やって、ため息をついた。


「「……誰に渡すつもりなんだ…?」」


「俺たちに、ってことはないか」
「本人に買いに行かせるか?」
「だよなあ…」

 二人ともレイに恋しているのに、彼らは協力関係にあった。
 取り合い以前の問題で、彼ら双子はレイにとって悪友以上になれずにいたのだから。

 一番近くが盲点とは、誰が言ったものか。
 当たりすぎていて、いっそそいつが憎らしい。


「好きな女がどこぞの馬の骨に渡すカードを買いに行くんだぜ、俺たち」
「口に出して言うなよ、余計辛い」

 ジョージがため息をつく。

「しかも大切なことを忘れてる。翌日からブラコンホモ扱いだ」
「歴史に残る最悪バレンタインだな」

 はは、と乾いた笑いをフレッドが発し、それをきっかけに二人はまた歩き始めた。
 あまりに落ち込んでいて、購入するカードに悪戯してやろうと思いつくことすらない。





 彼らはまだ、知らない。

 当日、なんだか見覚えのあるカードが、ふくろうで運ばれてくることを。



『今度からは私も絶対計画に混ぜなさい
 失敗なんてさせてあげないからね』


 なんてメッセージと共に、
そこにはちゃんと、いつも一緒にいる彼女の頭文字が刻まれているのだ。


…まあしっかりと、例の噂は立ったのだけれど。




End. 

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