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まだ仕事はたくさんあったが、昼食に続けて夕食まで抜くわけには行かない。
着いた大広間に、スプラウトは姿を現した。
「もうよろしいのですかな」
と聞くと、
「風邪ひき草の面倒があるんです、二日以上休んでられません」
と、マダム・ポンフリーと正反対の言葉をきびきびと言った。
「スネイプ先生、ご迷惑をおかけしましたね。一箇所にまとめておいたから少しは時間短縮になったでしょう?」
との問いに、彼は短く肯定の返事だけした。
本当は夕方までかかってしまったが、理由は人に言えるものではない。
廊下に出たところで、彼はグリフィンドール生を呼び止めた。
「今日お前のクラスの宿題は、提出期限だったはずだな?」
「はい…先生、すぐに当番が持っていきます」
「当番は誰だ」
「レイ・コーリです」
彼はほんの少しだけ反応を見せたのだが、陰険教師に怯えている生徒がそれに気づくことはなかった。
* * *
研究室に戻ると、彼はまっすぐ机に向かった。
整理しかけている薬草のそばに、一冊の本が置いてある。
読みかけたまま手放すのが惜しかったのか、無意識に持ってきてしまったものだった。
ふと、考える。
返すべきだろうか?
これを返せば、夢は現実になる。
ただし、あのまっすぐな瞳が自分を見る日は永遠に訪れないだろう。
返さなければ、夢は夢のままだ。
ただし、きれいなままの思い出が、残る。
現実になんの影響ももたらさない。
――――どちらも同じか。
彼はため息をついてから、自嘲した。
自分が生徒たちにどう思われているかは熟知している。
自惚れるには程遠い。
ならば、と彼は選んだ。
それは彼らしい選択だった。
「失礼します」
「入りたまえ」
…意外にも。
猫は手に入ったらしい。
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