「ノボリ、ねっ、ねっ、キスしてキス!」
今日もバトル日和と言わんばかりの晴れた日の昼下がり。
デスクでカリカリとペンを滑らす可愛い可愛いノボリに啄むように軽いキスを頬にするとノボリは黙って此方を睨んできた。
そんな目されてもしたくなったんだから仕方がない。
「あなたはここを何処だと思っているのですか。」
「うん、でも、キスしたくなっちゃった。」
「…、ここは職場で公共の場で私達の立場上の問題を分かって、いますか?誰かに見られたら大変なのですよ。」
相変わらずのお決まり文句と眉間に寄せられた皺を僕の瞳に移しながらノボリはむくれた。
その拍子に銀の瞳が陽光を受けてキラリと光る。同時に色白の肌が更にシルクのように真っ白になって唇が目立って仕方がない。
なんて色気なんだろ、うああ駄目だ。物凄く今、キスしたい。一気に欲求が爆発してしまったけどでも僕は悪くない。誘惑したノボリが悪い。
なんて、諦める気など毛頭ない僕はムスリとした何時もよりも何割り増しの顰めっ面にニコリと微笑んだ。
フフだってね、僕知ってるの。こうやってニコニコ笑って押し通せばノボリは最後には許してくれるって。
だってノボリは僕の事、大好きなんだもん。そうだよ、ノロケだよ。
「ねーねー、ノボリ。」
「あなたはっ、本当に煩悩の塊なんですから…!」
それはひどいよノボリだって本当はチューするの好きなくせにさなんて思いつつ、もう一押しと睨んだ僕はいつもの決まり文句を言おうとしているノボリに、お願いっていう意味を込めてキスの雨を額に贈る。すると、ゆっくりと眉間の皺が解かれていって、はぁ、なんて溜め息をついたノボリは顔を上げて「ソフト、ですよ。」と言って唇を僕にへと向けてくれた。
全く甘いなぁって思いながら頷いてその献上された薄い唇に自分の唇を落とす。
「ノボリー!んーっ!!」
「むぅ…っ、ん!」
くっつけた色素の薄い唇は見掛けによらずふにふにと柔らかくて暖かい。
とても気持ち良くて何度も何度も唇を堪能していたら、結局欲に負けてしまって舌をいれてしまった。
あー、約束をやぶちゃった。きっとまた終わったあと小言を言われるんだろうなぁ…。
なんて思いつつも、止めるなんて選択肢なぞあるはずなくも逃げるノボリを絡めとって弄ぶ。
ちゅくちゅくとわざと音をたてる度に小さく震えるノボリの肩を優しく抱いてあげると、ジワリとその閉じた目から雫が滲んでその肢体を僕に預けてきた。
とても軽く華奢なその体が僕と全く同じものだなんてとてもじゃないけど思えない。
「ノボリ、かわいい…っ!」
「ん、んん…ぁ…。」
時々漏れるノボリの官能的な声が聞きたくて様々な角度に変えたりしながらその唇を堪能して暫くすると、息切れを起こし始めたノボリがくぃっと僕の袖をひっぱたから、大人しく唇を離す。
ゆったりと銀の糸が名残惜しそうに切れた。
「んっ、あなたと、言う人は…。」
涙が浮かんだ真っ赤な顔でキリリと此方を睨んでくるノボリにますます笑みが深まる。可愛い。凄く可愛い。
ああ、もう本当に…、
「僕、ノボリが世界で一番だーい好きだよ!! 」
「……ふぇ?」
一瞬の間を置いた次の瞬間彼は、目を見開いてその瞳を右往左往させた後ワナワナ震えながら
「ばかぁ…っ!!」
と、更に真っ赤になって僕に灰皿を投げつけてきた。
「うわぁっ!!」
ちょっと、危ないよ!なんて言う前に僕が避けるのと同時にノボリは怒って部屋を出て行ってしまった。
本当の事言っただけなのに…。多分、今頃はきっとまた甘やかして痛い目みたと嘆いているんだろうけど、それにしたって今の行動と表情は反則じゃない?
…っああもう何で、僕のお兄ちゃんはあんなに可愛い生き物なんだろう。
胸に灯った燃える熱に酔いしれる中、ノボリが出て行った扉を見つめまだ暖かい唇に指先をあてがえば蘇る柔らかい感触。
小刻みに震えていた彼はまるで迷子の小鹿みたいで。
早く仕事を終わらせて彼を抱きたい、だなんてこれじゃあ煩悩の塊ってあの子に言われても否定出来ないや。
頭の中は、君一色
(よしさっさと仕事を終わらせてノボリと一緒にベッドへダイビング!)(…何か今、悪寒が…。)