「ごめんなさい」



深々と頭を下げたいけど、そんなことしたって目の前の人を余計に困らせてしまうだけだと分かりきっていたから真っ直ぐに見つめる。こんなことになってごめんなさい。あんなに私を思って色々言ってくれてたけど、結果はこれ。惨敗だ。



「俺のことはいいんだよ!それよりもやっぱりこうなったからには篤に言ったほうが絶対にいいって」



困っているのか怒っているのか呆れているのか、そのどれともいえる顔と口調は必死に諭すけど一向に首を横にしか振らない私に眉をひそめ時間が立ってぬるくなったコーヒーに口をつけた。




「馬鹿だな、篤は。って十分由梨ちゃんも馬鹿だけど」



優しさの中に厳しさもある彼の瞳に映る私は滑稽なんだろう。散々浮気をされた挙げ句、相手に子供ができてしまった可哀想な女。




「ほんと馬鹿だよね。でも決めたから」



篤は知らない。私は鈍らない。このお腹の中にも命が宿っていたことを。一人で産んで育てると決めたから。こんな馬鹿でどうしようもない二人の間にできた命だけど産むという決断以外考えつかなかった。計り知れない苦労を味わったっていい。大切にしたい。私がママなんだもん。この子を守るのは私しかいない。




「…由梨ちゃんは強いね」

「そんなことないよ」



だって結局、こんな逃げ道を作ってしまった。意味がないのに。なんの解決にもならない。ただの逃げ。私は篤から逃げただけ。どうしたらいいのか分からなくて、篤の親友である徹也くんに助けを求めてしまったのだから。徹也くんからしたらいい迷惑だろうけど、「気にするな」と言われればまた甘えてしまう。こんなダメな私のどこが強いの?




「俺は全力でサポートする。だから由梨ちゃんは自分の体と子供のことだけ考えてればいいからね」



くしゃっと頭を撫でてくれた手と言葉は弱まりきってる私の涙腺を刺激するには十分すぎて、からからになる喉から声はうまれない。今私が一番欲しい手はこの手なのか知らんフリをして心を殺す。汚い感情の中でも流れる涙だけは綺麗な気がして、それを受け止めてくれる人差し指に余計泣けてきた。




「大丈夫。俺がなんとかする」



力強い言葉にやっと頷ける。だけど、相手はあの篤だよ?すぐにその手に捕まって引き戻されてしまうかもしれない。そしたら私はどうしよう。徹也くんはどうなる?


本当にこれでよかったのか正しい答えなんてどこにあるんだろう。見つからない答えを探すよりも今はこれでいいんだ、と自分に言い聞かすしかできない。




「本当にごめんね」



鳴り止まない徹也くんの携帯が震えるたびに罪悪感が込み上げて押し潰されそうだ。



「篤もしつけーな」



はは、っとかわいた笑みをこぼした後、その画面から光が消え私の携帯同様ただのガラクタに変わる。




「こんなに必死になるくらいならもっと大切にしとけっつーの」



届かない静かな声がぐさり心に刺さった。やっぱり大切にされていなかったんだ、私。わかっていたけど辛いな。こんな結末を誰が望んだんだろう。もっと大切にされたかった。よそ見なんてしてほしくない。縛り付けておけばよかったの?他の女を触った手はいらない。最後に帰ってくればいい、なんて嘘。気付いてほしかった。私だけを見てほしかった。これはワガママなの?普通のことでしょ?なんでこんなに難しいの。





「最低…さい、あく。もう嫌だ。なんであんな男なんか…」



"好きになんてなりたくなかった。"


それは好きになってしまったからこそ言えるセリフ。吐き出したらもっと惨めになってしまう気がしてぐっと止める。

自己中で私の気持ちなんかいつだってお構いなし。性格の悪さなんてピカイチだ。今までこんな思いしたことない。いつか忘れてやるんだから。パパなんて初めからいないのよ、って。あんな奴に父親がつとまる訳ない。それこそ子供がグレちゃうかも。だから私がしっかりしてれば平気。何倍でも惜しみなく愛してあげる。






「でも由梨ちゃん、子供は一人じゃできないよ」



これは二人の責任。

うん、わかってるよ徹也くん。正論すぎて嫌になっちゃうくらいに。

だからいくら悪態をついてもね、本音を言えばもっと一緒に居たかっただけだよ。







恋涙

(偽りのない、愛のかたち。)



すみません!もう一話!もう一話だけ続けさせて下さい(>_<)うまくまとまらない結果ですね。出直してきますwwちなみに由梨は自分が妊娠していることを浮気相手と修羅場る前からわかっていて徹也にも相談していました!








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