越えられない一線

※高妙(現パロ)

日常、そうであるから仕方ないと妙は思っていた。他者から見たら不思議に感じられるだろうが、自分たちにとってそれは普通だった。それは思い込みであるかもしれないし、現実から目を逸らしているだけかもしれない。ただ抜け出すことも出来ず、力ない息を一つ吐いた。
夕飯。作ろうと思えば作れるが、ここに共に住むある人物に火は危険だからと止められている。学校帰りに近くの惣菜屋で買った美味しそうな料理を皿に盛り付けながら、妙は物思いに耽った。


(火が危険だなんて、本当に心配性なんだから……)


料理を作るな、というのは違う意味も込められているのだが、妙は気付かない。それでも買ってきた野菜でサラダを作りたく、妙は包丁を手に取った。火を使えば怒られるが、野菜を切るくらいなら大丈夫だろうと思う。学校帰り、制服の上にエプロンを付けた彼女は赤く実ったトマトに包丁を入れた。
が、その瞬間、背後に急に気配が。包丁に集中していた妙は、その急な気配に驚いてしまった。


「何、してんだ……?妙」


低く話された声に思わず肩が揺れる。その怒るでも咎めるでもない声は、彼女の思考を停止させた。何か話さなければ、妙は思うが突然のことに気の利いた言葉が出ない。と、そちらに気を取られていたせいか、包丁の切っ先が揺らいでしまった。
しまった、と思った頃には遅い。妙はその光景を見、重いため息を一つ吐いた。


「あーあ……血が出ちまったなァ」
「…………」
「だから言っただろ、テメェは台所に立つなって」


喉を鳴らすような、そんな笑い声が背後から聞こえる。言う通り、妙の指先からは真っ赤な鮮血が流れ出していた。包丁が誤った方向へ行ったために怪我をしてしまった指先。まともに切ることに集中させてくれたなら、こんなことにはならなかった。
誰のせいかしら、妙は目を閉じそう思う。


「…………お兄さんのせいですからね」
「………ほう。」
「あなたが背後から、いきなり話し掛けるから。」


妙の言うことは尤もだと思う。どんな人でも、背後から驚かされたら指を切ることくらいあるだろう。彼もそう、理解してくれたと思ったのだが。
でもやはり、包丁を使ったのは間違いかもしれない。背後から手首を掴まれ、耳元に唇を寄せ話してきた彼の言葉に、妙は固まった。


「屁理屈、だろ………なァ、妙」
「っ………」
「俺の言いつけを守らなかった、テメェが悪い」


背後の人物はそう呟き、ぱくり、妙の指先を口内に含む。生暖かい舌の感触が指先に伝わり、妙は身体が震えた。まるで吸い付くように、彼は指先を舐める。引き抜こうとも手首を掴む力が強く、妙の力ではどうしようもなかった。
血はもうおそらく止まっている。一分程舐めていた彼は、ようやく自分の指先を解放してくれた。腰が疼く感覚に辱しめを感じながらも、苦し紛れに呟く。


「血なんて、舐めたら汚いです。もう二度としないで下さい、大体お兄さんだからって、」
「……ククッ、照れてんのか」
「……照れてません。晋ちゃんって呼びますよ?」
「呼びたいなら呼べばいい」
「…………」
「勝手にしろ、妙」


ニヤリ、貼り付いたような笑み。馴れている顔ではあるが、妙はこの表情が苦手だった。全てを見透かされているような、そんな気分になる。そんなことないと、そう思うのに。
今日は仕事お休みだったんですよね、またずっと寝てたんですか?妙は背中の体温を離しながら問いかける。何も言わない彼は、その質問に肯定のようだった。

――――お兄さん。妙がそう話すように彼は自分の兄だ。今年高校二年になる妙と七歳ほど離れている。一応、社会人だ。心配性の兄、聞く分には全く問題なく、至って普通の兄妹に見えるかもしれない。だが自分たちには、他の兄妹とは明らかに違うところがあった。
それが妙自身を惑わせている原因だし、悩ませている理由なのだが、仕様がない。どう足掻いてもそれは、抗いようがないのだ。

料理を盛り付けた皿を妙はテーブルに置いていく。その姿を彼は、腕を組み静かに見つめていた。


(どうして、かしら………どうして

義理、だなんて………半端な関係なの)


ため息を吐いても、その事実は覆ってはくれない。いっそのこと本当の兄妹ならば良かった、妙は落ち込むように思った。
彼女の父は数年前再婚をした。その相手には連れ子がおり、それが兄、晋助だった。当時妙は中学生で、彼は大学生。前々から兄という存在に憧れていた妙は、いきなり出来た兄という存在にどれだけ喜んだことか。
彼もまた、そんな妙を快く妹として迎え入れてくれた。それはきっと、今も変わらないのだが。
でもやはり、これは異常だと思う。


「………できましたよ、お兄さん」
「お兄さんじゃねえ、晋助だ」
「………晋助、さん」
「俺ァ、まだ腹が減ってねえ」
「そんなこと言って、お昼も食べてないんでしょう?ちゃんと食べなきゃ」
「お前が食べてえ」
「…………」
「なァ………ダメか?」


いつの間に彼は自分の近くに来たのだろう。立ち尽くしていた妙をゆっくり壁際に追い詰める。吐息のような、甘く狂わせるような甘美な声。身体の芯まで疼くような、そんな気がした。
ダメかって、ダメに決まってるじゃない。平常心を必死に保ちながら妙は彼を見つめる。そっと、笑みを作り話した。


「私は、簡単には落ちませんよ?お兄さん」
「……ああ、そうだなァ」
「そんなに盛るなら、外でメスザルと発散してきてください。」


見た目も端整な彼のことだ、発散には事欠かない。私のような生娘よりいい人は沢山いるはずなのだ。それとも何、(ロリコンなのかしら?)
力が緩んだ彼に、諦めてくれたのだと妙は気が弛む。が、それがいけなかったかもしれない。
妙にとっては予想だにしない、そんな言葉が聞こえてきた。


「………お前しか、目に入んねえっていったら、どうする」
「…………」
「昔は、誰でも良かったんだがなァ」
「…………」
「今は………妙、

お前しか抱きたくねえ」


強引に、ではない。彼はゆっくり妙の唇を指先で触り、唇を塞ぐ。抗うことだって出来た筈なのに、妙は動けなかった。ふわり、兄の嗜好する煙草の味が口内に拡がる。柔らかい舌と舌が絡み合う度、身体の奥が痺れるような、そんな気がした。
離れなければ、妙は必死に思うが、彼は止めてくれない。制服のスカートの裾から、細く骨ばった指先が妙の柔らかな太股を撫でていった。


「っ………」
「良い反応だ………妙」
「やめ、て……お兄さん」
「こんなに感じてんのに、やめてほしいのか」
「兄妹、よ………ダメに決まってるじゃない」
「………血は、繋がってねえがな」
「ん………っ」
「なぁ妙……お前、気付いてんだろ」


――――俺から、逃げられないことくらい。

頭が真っ白になる。彼の指先は段々と自分の身体を弄んでいくのに、身動きが取れなかった。彼の生ぬるい舌が妙の首筋を焦らすように舐めていく。舌と指先に感覚が研ぎ澄まされ、気が狂ってしまいそうだった。
これ以上は、そう紅潮した顔を隠すように、妙が彼を突き飛ばそうとした瞬間。ある声が聞こえてくる。
それが助けなのかそうでないのか、妙は分からなかった。


「お妙ー、ちょ、宿題見せてくんない?銀さん遊びすぎたら大量に宿題たまっ、ちゃっ、て…………」
「………坂田、くん」
「………なんだ、テメェか」
「…………ええええ!?ちょっ、君たちなにしてんの!?兄妹だろ!!!おまっ、離れろエロ兄貴!!!」
「チッ、なに勝手に来て騒いでんだ、空気読めクソガキ」
「うっさいですークソアニキに言われたくないですー!訴えるからなロリコンで!!」


救世主――――なのか、近所に住む坂田銀時の来訪のおかげで妙は解放される。ほっと一 息吐きながらも、妙は少し考え込んだ。戸惑っているのは兄のあの発言のせいか、よく分からない。
ただ嫌に疼く心臓の高鳴りは、しばらく消えてくれなかった。
宿題ね、ちょっと待ってて。何事も無かったかのように妙は自室に戻る。兄と銀時のやり取りがうるさく聞こえる中、ドアの前で妙は乱れた衣服を直した。


(嫌ね、気持ちがまとまらない………)


妙は頬に集まる熱に、終始戸惑う。こんなことになるとは、予想をしてなかった訳じゃなかった。だが、やはり動揺する。
兄の発言にも動揺したけれど。でもそれ以上に。
この、渦巻く感情の意味。

力なく、ベッドに座り込む。耳まで赤くなった顔を冷ますように、妙は枕に顔を埋めた。


(一番問題なのは、これね………やっぱり、本当の兄妹ならば良かった……)


そうしたらば――――兄を、彼を。


「…………好きにならずに、済んだのに。」


越えられない一線

(いつか越えてしまうかも、でも越えたくない。不安と期待に渦巻く自分が、妙は一番恥ずかしかった)



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ゆいち様から頂きました高妙……!
え、えろす……!
エロ杉だよ!クオリティ高杉〜!だよ!
義理って関係がほんと……いかん、よだれが……。
鼻血を拭くことは諦めました。どうせ止まらないもの!
お妙さんが可愛すぎてね。晋助兄さんの気持ちもわかるわー。
坂田君が帰ったあとのお妙さんの反応が楽しみですねふっふっふ。
素敵高妙に荒ぶって私どーにかなりそうです。
ゆいちさん!本当にありがとうございました!!
眺めてはニヤニヤしますね!キャッホー!

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