暑さが和らげば彼女への想いも治まるのだろうか

調子が狂う、とでも言いますか。茹だるような暑さの中で沸いてくるのは他愛もないこと。欲求なんぞ絶え間なく溢れているし目につくものは煩わしいし何となく苛々するし。 夏と言う季節は、苦手だ。今でさえ考えがまとまらない。
あちぃーだなんて態とらしく天を仰いでいれば、あら、銀さんここにいたんですか、だなんて背後から聞こえてくる。彼女の声に答えたくない訳じゃないがただ発言するのも煩わしいため、何となく無言を貫いた。


「聞いてますか、銀さん」
「……おー、聞いてる」
「新ちゃん、神楽ちゃんとプールに行きましたけど」
「あー、みたいだな」
「銀さんは行かないんですか」
「………お前はなに、オレのお母さんなの?」


不服そうに呟けば、こんなもじゃもじゃの天然パーマ産んだ覚えありません、と彼女は笑顔を張り付け返す。あっそ、と大して興味もなくそんな言葉を返した。


「テメェは行かねえのかよ、プール」
「私は、九ちゃんが今日は忙しいっていうから」
「……ふぅん」
「麦茶でも飲みますか、縁側にいたら暑いでしょう」
「………あぁ、頼む」


夏用の着物に袖を通した彼女は、慣れたようにそう呟き台所へと向かう。何となくむず痒いのは、この一連の流れが慣れてきたからか。頭をかいて項垂れる。近くにあった団扇を掴みパタパタと風を扇いだ。

何気なく神楽を連れて新八の家に来て、あいつらはこの暑さにプールなんぞ行くとか言って、オレはこのやる気も失せる熱に打たれ、縁側に腰かけて。
涼しい場所に移動すりゃ良いがその気さえ起きない。何もやる気がでない。
パタパタと、団扇の音だけが辺りに響いた 。


「今日は一段と暑いですね」
「……この分じゃ来年はもう干からびるな、骨だけだよオレもお前も」
「あらあら、それは大変ですねぇ」


ふふふ、と含み笑いをしながら彼女は氷の入った麦茶を縁側に座るオレの側に置く。その隣に彼女は、慣れたように腰を掛けた。からからになった喉はもう我慢が出来そうになく、水滴を垂らすコップをゆっくり掴み唇に付ける。冷たい麦茶が喉を潤していった。
毎度思うが、なぜこうも喉が乾いたときの水は美味しいのか。心底思う。コップいっぱいの麦茶を飲み干せば、カランと気持ちのいい氷の音が鳴った。


「夕方になれば少しは涼しいんですけどね」
「あー…まあな。つうかお前いつも涼しい顔してるよな」
「あら、そんなことありませんよ、汗だってかくし」
「………汗、ねぇ」
「?どうしました」
「……いや、何でも」


暑いし何もやる気が起きないし、夏はやっぱり苦手だ。蝉はくそ五月蝿い、本当にうんざりする。でも。
一番うんざりするのは、何でもないことで在らぬ欲求が沸いてくる、こんな自分にだろうか。


(なんつうか、なぁ…………こんなんで、胸が疼きやがる

髪が汗で、張り付いたぐらいで)


ピタリ、いつも彼女の首筋に流れる髪は滲む汗で張り付いている。彼女の茶色がかった綺麗な髪は、白い首筋に映えていた。着物故だろうか、妙に主張するそいつに心なしか胸を動かされる。見慣れている筈なのに、苦虫を噛み潰した。
特別な存在なのだろうか、分からないがこいつに女を感じる時はある。
触れてみたいと、思うことも。


(………つっても、こんな女に触れる勇気はねェけどな)


ヘタレなのか意気地無しなのか、それとも踏み入るべきじゃないと理解しているからか。 距離は今日も変わらずこのままだ。奥底から沸き上がるような欲求を撒き散らすことはできない。当たり前だ。

それでも、だ。それでも少しだけ、
踏み入ってみたいとも思うのだ。


「ふふ…今日はボーッとしてますね、どうしました?銀さん」


笑顔を振り撒くのはやめてくれ、と思う。ねじ曲がったオレの思考からは良からぬ欲求が沸いてくる。触りたい、首筋に触れたい、舐めたらソレどんな味すんの、暑ささえ、ほんとぶっ飛んじまうよ。お前のせいで。
ぐだぐだ頭が色んな思考を持ってくる。
ああオレやっぱり、
こいつが好きなのかもしんない。


「…………お前、さぁ」
「?はい」
「なんつうか、よ………………エロいんだけど」


パタリと団扇を仰ぐ手を止めれば、風が吹き込んで、団扇では鳴らなかった風鈴が鳴る。 彼女はオレの言葉を理解したのかどうなのか、珍しく黙りこくり耳まで顔を赤くした。 良い反応じゃねーの、そう思ってしまうオレは意地が悪いのか何なのか。未だに張り付く首筋に指先を伸ばせば、彼女は少しだけ肩を震わせた。
ああ、ついに触れてしまった。


(綺麗な、首筋なこって……噛みついてやりてえ……)


ちりんちりん、風がそよぎ風鈴が鳴る。それ以上、出来るか否かの境界線だ。越えようか、越えまいか、こいつはどちらの方が喜ぶ。分からないけれど。
新八と神楽が空気も読めず帰ってくる三分前。見つめ合ったまま、オレたちは、茹だる暑さの中、すこしの間、短い時を止めるのだった。


「……今日は変ですね、銀さん」
「………すまねえな」
「……………」
「暑いから、我慢できなかった」


暑さが和らげば彼女への想いも治まるのだろうか

(触れたら戻れないと分かっているけれど)



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ゆいちさんから誕生日記念として頂きました!
銀妙……!ちょっ、もう……これ……コレェェェェェ!!この気持ちをどこに持っていけばいいのか、どう伝えたらいいのか。
まったく解らなくなるくらいに悶えました……。萌え殺される……!
私のために書いてくださったと思うと、涙とニヤニヤが止まりません。顔が大変気持ち悪いことになってますよ!
だってもう!何このふたり!何この距離感!!
もどかしく、エロい……!
素敵な銀妙をありがとうございます!!
大切にします!!!
ゆいちさん愛してまぁぁぁぁす!!!

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