それでも楽しい毎日です。

※現パロ


今日もまた、長い長い一日が始まる。
エプロンをし、髪を結び、欠伸をしながら台所へ。普通の青年男子ならばこの時間寝ているだろうが、俺は否が応でも起きなければならない。何故ならば。

「佐助ー靴下がないぞ!」
「えぇ?タンスの中にあるっしょ」
「おい猿、プリントがない」
「片倉さんから預かったから待って、後で渡す」
「なぁ、今日朝ご飯なに?」
「また慶次まつさんとこから抜け出したの?怒られるよー」

このやり取りが待ってるからだ。
俺を育ててくれたのは武田信玄という、偉いとこの主人だった。小さい頃捨てられてた自分を拾い育ててくれたのだ。武田家は家訓があり、自分より下のものの面倒を見ることだった。そしてこの部屋は、その家訓を応用し、子供たちを預かるために用意されたアパートの一室である。
一番下は武田家に引き取られた中学一年の幸村、その次は片倉さんが忙しい時期にだけ預かる政宗、因みに近くに住む慶次と同い年の中二だ。他にも同じくらいの歳である元就や元親を預かったりもする。部屋はある程度広いから可能なのだ。
佐助は大学に通いながら、恩返しがてら彼らの面倒をみている。ここはある意味若い彼らの、寮みたいなものだった。

(寮って………俺様完全に寮母じゃんか)

朝食の目玉焼きを焼きながらうなだれる。朝からやることは沢山で、最初幸村と政宗を預けられた時は困った。まだ小学生だった二人は騒がしく、相手するのも大変だったのだ。まぁ、中学生に上がった今も時折展開する喧嘩は変わってないのだが。高一から世話しているためかそれも幾分馴れた。
大変だけど、武田さんの力にはなりたい。大学まで行かせてもらってるんだ、これだけでは足りないものだ。ある意味この恩返しはある程度こなせている辺り、自分には合っているのかも知れないが。

「佐助!あんまり焼くと焦げてしまうぞ?」
「はっ、ごめんごめん。皿っと」
「ぼーっとしておるな。しっかりせんといかんぞ佐助」
「あーはいはい……なんで俺様が旦那から説教を…」
「佐助はこう見えて抜けておるからな」
「……幸村くん、ちょっとおいで」
「む?」
「靴下にシール付けっぱなし、あれほど新品履くときは気をつけろって言っただろ?」
「おお!すまぬ!さすが佐助だな!」

いや、さすがでなくて。さっき抜けてるって言ったくせに自分が抜けてる否かは関係ないのか。いや、相変わらずだよこの御方は。それでも朝から元気な幸村の頭をポンッと撫でて佐助は作業を再開した。
目玉焼きにウインナー、サラダにお味噌汁、スクランブルエッグ。和洋折衷とも云えるそれらは今日も何だか統一感がない。幸村と政宗は食べ物の趣味が根本から違うため、致し方がなかった。確実にもう一食食べたいオーラを出してる慶次に幸村と同じご飯を出し、佐助は政宗と同じパンにする。エプロンを外し椅子に座った。

「はい、いただきますー」
「いただくでござる!」
「うん、うまい!まつ姉ちゃんのも美味いけど佐助のもなかなかだな!」
「どーも。つか俺大学生なんだからさんぐらいつけろよ慶次」
「おい、トマトはいらねーつったろ?何で入ってんだ」
「片倉さんのお申し付けだよ。食べるんだぞ」
「チッ、小十郎の奴」
「…………」
「旦那も、トマト食べろよ」
「ふぐっ……わ、分かった」

トマトを見てそわそわする幸村を一喝する。慶次はまつさんの教育のおかげかほぼ好き嫌いがないのだが、政宗と幸村は多い。特に政宗は基本好きな物しか食べたくない主義だから、自ずと好き嫌いが多かった。
片倉さんも苦労してんだろうねぇ。
息を吐きながら千切ったバターロールを口に入れた。するといきなりだろう、カシャカシャと紙がこすれる音がして慶次が鞄からあるプリントを取り出す。
黙って食べていた政宗に問いかけた。

「なー進路プリント、どうする?書いた?」
「進路プリント?もうそんな時期か、早いねぇ」
「そうなんだよ、トシとまつ姉ちゃんは実家継げしか言わなくてさ」
「慶次殿の家は有名な和菓子屋だもんな!」
「……旦那、和菓子食べたいって顔にでてる」
「なぬっ、真か」
「政宗はどうすんの?書いた?」
「……まだだ。電話で小十郎に実家継がねーって言ったら許してくれなかった」
「ふーん、政宗も俺と一緒だな」
「一緒にはしてほしくねぇがな」
「えーなんでー」

それぞれに色んな事情を抱えている。政宗は特に、親がいて俺や片倉さんに面倒をみてもらってるから、継ぎたくないってのも分からなくはなかった。
にしても、隣の幸村はどうするつもりだろうか。バクバク朝食を食うのは良いけど、俺と同じように進学することになるのか。同じ境遇の幸村が不安にならないようにも、立派に卒業し就職しなければと思う。
そんな事を考え出すと、やっぱり少々胃が痛かった。

(まだ大学一年なんだから、楽しみたいとこだけど)

これから色々やることはあるのに、今で手がいっぱいである。高校時代は出来なかった恋愛も大学では、と思っていたがやっぱり出来そうになかった。このままで大丈夫なんだろうか、俺は(確実に恋人は出来ない、よな…)

「お父さん、とか俺なれんのかな、将来」

緩く息を吐けば、目の前の彼らがキョトンとした顔でこちらを見る。

「?え、なに」
「佐助、何を言っておる。佐助はお父さんにはなれないぞ」
「Ah,無理だな。お前はどう考えてもそっちじゃない」
「は?なにがよ」
「だっからー佐助はアレなんだって、どう足掻いても」
「「お母さんにしかなれない」」

――――はい?
真面目に言ってきた三人が最早意味不明で、佐助は口があんぐりしてしまう。佐助はその真意を訊こうとするが、笑うだけで慶次に至っては肩をポンポンと叩くだけだった。こ、こいつら………!
言いたいことは分かる。確かに炊事洗濯をこなす俺は彼らにとってお母さん的な立ち位置なんだろう。でも、俺だって一応。

時間になったらしい三人は慌てて立ち上がり、学校へと向かう。その間も彼らによって安易に傷つけられた心の痛みは治まらなかった。

「くっそう何だよあいつ等……俺だって」

―――立派な男なのに。
何だかちょっと、泣きそうである。

(おはよう……あ、佐助?どうした、大学行こう)
「こ、こたっ…小太郎!!」
(!?)

迎えにきてくれた小太郎に抱きつき少々不甲斐ない涙を流す。くそうあいつ等の所為で俺はオカン化していくんだ、先の見えない将来に心底嘆いた。
それでも――それでもなのだ。

(あぁ、そういうことか……よしよし、大丈夫だよ)
「っぐ……何がよ」
(お父さんになれなかったら、あれだ
俺が佐助を奥さんにもらう)
「…………。結局お母さんじゃんか!意味ないだろ!」


それでも楽しい毎日です。
(嫌いでもないんだ、彼らの面倒をみるのも。こんな自分も、こんな毎日も)



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ゆいちさんから頂きました!
佐助と愉快な仲間たち!(笑)
みんな可愛すぎて心臓ひっこぬかれました。戻ってこい、マイハート。
基本何でも仲よしウフフが大好きなので、まさに楽園ですよ!
まとめてギュってしたいです……!
可愛くてほのぼのしてて、楽しい日常のお話ありがとうございました!!

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