罪と罰。
ヒルダにとっての絶対的存在はベル坊であり大魔王である。
なにを差し置いてもそれが揺らぐことなど無い。
そう思っていた。
それは男鹿も同じで。
一番はケンカ、な筈だった。
「…手慣れてきたな」
手際良くミルクを作る男鹿を頬杖をしながら見ていたヒルダは呟くように言葉を落とした。
「そりゃ毎日やってりゃ嫌でも慣れんだろ」
コポコポとお湯を注ぐ男鹿が心底嫌そうに言った。
聞こえていたのかと内心驚きながらも表情は変えずに男へと視線を向けるヒルダ。
「ベル坊待て!まだ熱いからヤケドするぞ」
ミルクに手を伸ばす主を手で制し男は人肌になるまで哺乳瓶を回す。
その姿はさながら父親そのもので、見ていたヒルダの口元が無意識に緩んでいた。
しまったと顔を引き締めるも、その経緯を男鹿はしっかりと見ていた。
そして同時に胸がムズムズとする感覚に眉を寄せる。
「…お前さ、変わったよな」
ベル坊にミルクをあげながら言う男鹿の言葉にヒルダはピクリと肩を揺らした。
「…そんな訳なかろう」
気取られないよう淡々と言葉を落としたヒルダはすっかりミルクを飲み干したベル坊を抱き上げるとふいっと男鹿に背中を向けた。
このままではマズいと。
自分の胸に芽生えた感情に目を背け、蓋をしたもののその感情は日増しに強くなるばかりで収まる気配を見せない。
こんなことではまるで大魔王様に面目が立たない。
そんな気持ちでヒルダは溜め息を吐いた。
まるで罪を抱えているみたいではないかと。
「坊ちゃまがお休みになられた、静かにしろ」
言葉を交わすだけで胸が張り裂けそうだった。
「…あっそ」
男鹿もまた同じ思いでコントローラーを握った。
…触れたい、でも触れられない。
男鹿の後ろ姿を見ながらヒルダは唇を噛みしめた。
悪魔とて一人の女だったのだ。
そう思うと急におかしくなり自嘲気味な笑みを浮かべる。
そっとベル坊をベットに寝かせ頭を撫でるとヒルダは立ち上がりドアノブに手をかけた。
いつかこの罪を男と共有する日が来るのだろうか。
おやすみと呟いてヒルダは部屋を後にした。
「どうすりゃいいんだよ………なぁ、ベル坊」
男鹿もまた初めて抱く感情に戸惑っていた。
ゲームをする気になれずコントローラーを放り投げベル坊の隣に横になった。
さっきまでいた女の残像が脳裏に張り付いて幻を生む。
くそっ、と舌打ちをして寝返りを打った男鹿の目に女と同じ髪の色をした月が飛び込んできて尚更胸が焦がれた。
いつか、絶対にあいつを抱きしめてやる。
そんな覚悟と共に男鹿は掌に翳していた月を乱暴に握りしめた。
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睦月さまより頂きました素敵男鹿ヒル……!
鼻血が止まりませんよ!
この距離感が何とも……悶えます!
素敵男鹿ヒルありがとうございました!