サトシ×カスミ



「サトシ」

「ん?」

「あたし、旅に出ようと思うの」


ピザを頬張っていたサトシがピタリと動きを止める。
伸びたチーズがテーブルに落ちると、ピカチュウがそれを拾い上げた。


「え……旅……?って……どこに……?」

「場所は決めてないわ。水タイプのポケモンがたくさんいるとこがいいとは思ってるけど」

「え、だって、ジムは……?」

「弟子に頼むわ。もうジムリーダーをやれる実力があるもの」

「で、でも……」


サトシはひどく狼狽していた。
それはそうだろう。
今やポケモンマスターとして名を轟かせているサトシは、あちこちから声がかかり世界を飛び回る日々。
旅をしていたあの頃とは違い、マサラタウンにある新居から仕事に向かっている。
それは、きちんと家に帰ってきて、日常を送るということ。
婚約者である、あたしとの日常を。


「それじゃ、誰がお帰りって言ってくれるんだよ……」

「コダック残そうか?」

「冗談やめろよ!何のためにマサラタウンにオレたちの家建てたと……」

「あら。散々あたしを待たせておいて、あたしが旅に出るって言ったら引き留めようっての?」


それは……とサトシは言いよどむ。
ピカチュウに助けを求めるように視線を向けるが、ピカチュウはただ首を傾けるだけ。
男らしく諦めろってことよ。
なんて笑えば、サトシはムッと眉間にしわを寄せた。


「お前が旅に出たら、オレと会えなくなるぜ?いいのか?」

「あたしは旅に出たいの。譲れないわ」

「………………」

「だから……」


サトシから目線をそらし、チーズで汚れたテーブルをふきんで拭く。
ピカチュウの可愛らしい足を見つめ、キュッとふきんを握った。


「あたしのワガママ、きいてくれる?」

「……わかった。旅がしたいって気持ちはよくわかるしな。今度はオレが待つ番ってことだ」

「待たなくていいわ」

「え?」

「待たなくていい」

「カスミ……?」

「だから、一緒に行きましょ!」


勢いよくサトシに視線を戻した。
ふきんを握りしめたまま、真っ直ぐに瞳を見据える。


「……オレが本当はもっと旅したいと思ってるって、知ってる?」

「知ってるわ」

「今の立場上、自由に旅できないってのは?」

「もちろん知ってるわよ」

「知ってて、言ってるのか」

「そうよ。たくさんの人に迷惑かけてって言ってるの」


視線は逸らさない。
睨むように見つめ合う。


「あたしにはサトシが必要なのよ。サトシを助けたいし、支えたい。そして助けられたいし、支えてほしいの」

「……まったく、カスミは時々むちゃくちゃだなぁ……」

「ごめん……。これがあたしの正直な気持ちなの。サトシと旅がしたい……」


ふわり、サトシの手が頭に触れた。
そのまま優しく髪を梳かれ、額にキスを落とされる。
そして、昔のような無邪気な笑顔。


「博士にも謝んないとな。研究の手伝いできそうもないって」

「サト━━」

「ま、新婚旅行って言えば許してもらえるかな」

「……!」


思わず目を見開く。
まさかの言葉に何も言えないでいると、サトシはフッと目を細めた。
コツン、とおでこを合わせ見つめ合う。


「カスミは夢を叶えたいんだろ?」

「うん……」


そう。
あたしはまだ夢を叶えていない。
水ポケモンマスターになる夢を。
サトシは夢を叶えた。
だからあたしも頑張りたい。


「カスミはオレを待っててくれた。いつでも支えてくれた。今度はオレがカスミの夢を応援する。お前の傍で」

「うん……!」


ぎゅっと首に腕を回した。


「ふふ……サトシがいてくれたら、絶対叶う気がするわ」

「絶対叶うよ」


ピカチュウが優しく鳴いた。



I need you!

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