シンジ×カスミ



「も、もう歩けない……」


続く登り道。
いつまで経っても山の頂は見えない。


「ねぇ、シンジ……少し休憩しましょ……」

「俺は疲れてない。だから休憩は要らん」


前を歩くシンジはスピードを緩めようともしない。
女の子に気を遣うってことを知らないのかこの男は。
仕方なく足を動かすも、その足取りは重くて今にも転びそうだ。
額に浮かぶ汗を拭い、一歩一歩進んでいく。
しかし、やはり上がらなくなった足では小石ですら越えられない。
カツンとつま先に引っかかった。


「わ……!」


何とか踏ん張り、かっこ悪く転ぶのは免れた。
思わずため息が出る。
ふと視線を感じ顔を上げると、シンジが真顔のままこちらを見ていた。


「ご、ごめんシンジ……。えと……あたしは少し休憩していくから……。先に行って」

「そうか。虫ポケモンがいるかもしれない。せいぜい気をつけな」

「何でそんな事言うのよ!急に気になってきちゃったじゃない!」

「俺は可能性の話をしただけだ」


全身に鳥肌が立った。
すぐそこにいるかもしれない。
そう考えるだけで、この場に留まることはできなくなった。
重かった足も、それどころではないといつもより速く動く。
苦手意識がこんな役立ち方をするなんて複雑だ。
シンジがふと笑った気がした。
本当に腹の立つヤツ。
だが、こんな所までついてきたのは自分の意思であるため文句は言えない。
むしろシンジにはジャマだと言われたくらいだ。
絶対役に立ってみせる、と息巻いた以上足を引っ張るなんて言語道断。


「でも……ちょっとくらい優しくしてくれても……」

「ついていきたい、と言ったのはお前だ」

「わ、わかってるわよ!」


声に出したつもりはなかったが、つい口にしてしまったらしい。
自分勝手を言ってここにいるのに、不満を口に出すなんて。
ちらり、シンジを盗み見る。
怒ってはいないようでホッと安堵した。


「体力つけなきゃなぁ……。旅してた頃ならこれくらい歩けたのに……」

「なら俺と行くか?」

「……え!?そ、そそそそれって……えぇ!?」

「冗談だ」

「……じょう、だん……」


そんな冗談言うなんて。
本気にするところだった。
というより、そうなれたら素敵だと思った。
ジムを放っては行けないが、いつか、そうなれたら……


「見えたぞ」

「え?」


やっと見えた、その頂。
広がるのは穏やかな水面が太陽光できらきら輝く美しい湖。
そして、目指すは湖の真ん中にある洞窟だ。
洞窟を守るように湖が囲んでいるこの場所に、度々不思議なポケモンが現れるらしい。
色々な噂があるが、どれも神秘的でそのポケモンの正体を誰も知らない。
水辺のポケモンならシンジの役に立てると思いくっついてきたのだ。
なんとしても不思議ポケモンに会わなくては。


「なるほど。神聖な場所とされてるようだな……。洞窟へ行くための舟もない」

「そうね……。道も整備されてなかったし……自然とポケモンたちだけで作っている場所なのね」


そんな所にシンジと来ている。
本当に一緒に旅をしているようで、嬉しさで頬がゆるむ。


「カスミ」

「へ?あ、うん、何?」

「お前が必要だ」

「……え?」


ドキン、と胸が高鳴った。
とても素敵なセリフを言われた気がしたが、気のせいだろうか。
シンジの表情があまりに無愛想で空耳かと思ってしまう。


「オイ」

「へ!?あ、えと……」

「向こうに渡るために水タイプが必要だ。お前の手持ちを貸せ」

「………………」


空耳ではなかった。
なかったが、期待したものとは違った。
そんな事だとは思ったけれど……。
役に立ちたくてついて来たのだから、望んだ展開だと自分に言い聞かせ、モンスターボールからギャラドスを出した。
その背に飛び乗り、洞窟へと向かう。
あれ……?
ふと、疑問がよぎった。
水辺に生息するポケモンだということは、最初からわかっていた事だ。
それならば、水タイプでしか行けない場所にいる可能性も充分考えられる。
なぜ、シンジは水タイプを連れてこなかったのか。


「…………!」


まさか、あたしのため……?
そうだとしたら、きっと聞いても答えてはくれない。
役に立ちたいという気持ちを汲んでくれたのだろうか。
真意は分からないが、そうなら嬉しいとシンジの服の裾を少しだけ掴んだ。


「……ありがと、シンジ」

「何がだ?」

「フフッ、別に」


幸せな気持ちがいっぱいに広がる。
神秘的なポケモンがコダックでも、全然問題ないと思えるくらいに。


(って、本当にコダックはないでしょ……。シンジ、大丈夫?)
(……め、珍しいコダックかもしれん……一応バトルを……)
(あ……動揺してる……)



I need you!

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