レッド×カスミ



「ああ、もう!」


どうして砂浜はこんなに走りづらいのか。
何度も歩いて走って親しんできた感触が、この時ばかりは恨めしく思う。
早く前に、前にと気持ちばかりが先をいく。


「普通に道路走れば良かったわ……!」


後悔したって遅い。
それもこれも、アイツが急なメールをするからだ。

『今、会える?』

予定はあった。
けど、最優先にしてしまった。彼と会うことを。


「ていうか……!」


息切れしながら前方を睨む。
ここは砂浜、見晴らしバツグン。
遠くでボケッと海を眺めているのはメールをよこしたアイツ。
普通、気づくものじゃない?
こっちから大声で呼べばいいかもしれないが、あのボケッとした様子を見たら腹が立ってそんな気になれない。
これでは、たまには会いに来いとうるさいから仕方なく来た、みたいじゃないか。
恋人同士のはずなのに。


「レッドのバカ……!」


口ではそう言っても、走るスピードはゆるまない。
気持ちは前へ、前へといく。
不意に、アイツが振り向いた。
ドキリと甘く痛む胸。


「レッ━━!」


本当に、砂浜なんて走るんじゃなかった。
嬉しさのあまり足がもつれたなんて。
小さい頃以来だった。
ビターンなんて効果音がつきそうな、派手な転び方をしたのは。


「……ぷ、っくくく……」


レッドの笑い声が聞こえた。
短い時間で髪をセットし、可愛らしい化粧もして、買ったばかりのワンピースを着てきたのに。
何もかも台無しだ。
砂まみれになった姿が惨めとわかっているせいで、顔を上げられない。
せっかく、せっかくと悔しさで涙が滲んだ。


「カスミ」

「…………」


レッドの優しい声と、久しぶりに呼んでくれた名前。
悪い感情で渦巻いていた心は、それだけで明るくなる。


「カスミに会いに来たんだ、顔見せてよ」

「……砂まみれの顔を?」

「はは、洗えば落ちるだろ?」

「お化粧したのに」

「しなくたって可愛いから大丈夫」

「よく恥ずかしげもなく言えるわね……」

「だって……」


少し言いよどんだ。
数秒の間。


「たまにしか会えないし、言いたいことは言わないとさ。言いたいこと、たくさんあるから」

「━━だ!」


ガバッと上体を起こす。
砂がパラパラと舞う中見たレッドは穏やかに微笑んでいて、思わず唇を噛み下を向いた。


「だったら、もっといっぱい……会いにきてよ……!」

「ごめん」

「いっつも謝るばっかなんだから……!」

「うん、ごめん」


わがままなのは分かっている。
本当はレッドのする事を背中押して応援すべきなのも。
レッドに恋なんてしてなければ、そうできたのだろう。
でも、彼に恋していない自分なんて想像つかないほどに。


「顔、上げて?」

「……っ……!」

「カスミ」

「な、によ……乙女は好きな人に見せたくない顔があるのよ……!」

「心配しなくても、どんなカスミも大好きな自信あるから」


差し出された手が、影で見えた。
恐る恐る顔を上げる。


「大好きだよ、カスミ」

「━━あ、あたしも……!」



I love you!

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