まだ先の話



「お前さァ……」


鞘から刀を抜きながら、銀時は隣に座る高杉に問いかけた。
刀の刃はボロボロで、斬るという目的はもう果たせそうにない。


「先のこととか考えたことあるか?」

「目の前の敵を斬る」

「そりゃ今だろ。そんなすぐの話じゃねーよ。例えば……十年後、とか」


高杉は銀時の横顔をチラリと見る。
銀時の目に映るもの。


「感傷に浸ってんのか?お前が?」

「そんなんじゃねーよ……」


銀時は眉を寄せた。
攘夷戦争。度重なる天人との戦。
この間まで拠点にしていた場所は奴らに破壊されてしまった。
新しい拠点を探し、見つけたこの場所。
荒れているが、戦争が始まる前まではきっと笑い声で溢れていただろう。
小さな、寺子屋。


「ガキの頃、大人になった自分を想像したかって考えてただけだ」

「フン、どっちにしろお前らしくねェ」

「うるせーチビ」


銀時は刀を鞘におさめると、壁に立てかけた。
新しいのを手に入れなければ。敵から奪ってしまおうか。
そんな事を考える。
ふと、視界が陰った。
振り向けば、キラリと光る高杉の目が銀時を射抜いた。
刹那の一閃。
高杉は躊躇なく自身の刀を振り下ろした。
砂埃が舞う中、ギリギリでよけた銀時は微笑を浮かべる。


「……っぶね……テメェ……何すんだ」

「黙れ腐れ天パ。次チビっつったらぶっ殺す」

「な〜に、やっぱり気にしてんの?お前変わんねーもんな。俺らとだいぶ差がついてんもんな」

「これでも伸びてんだよ」

「へぇ〜。この間測ってから何センチ伸びたんだ?あ、何ミリか?」

「0.5センチだ死ね銀時!」


高杉は刀を薙払った。
飛び退いた銀時を追うように、すぐさま手首を返し振り上げる。
銀時は上体を反らしながら、立てかけた刀を手に取り高杉の斬撃を受け止めた。
ピシッ━━鞘にヒビが入る。
銀時と高杉は口元を歪めた。


「何をしている貴様らァァァ!」

「ふぐぉ!」


突如、銀時は後ろからの衝撃に襲われた。
体が前方へ飛ぶ。高杉を巻き込んで。
背中に蹴りを入れられたと理解する前に、銀時の目の前には高杉の顔が迫っていた。
このままいけば、確実に。
ヒヤリと胸が痛んだ瞬間、視界の端に刃を捉えた。


「あぶなぁぁぁい!!」

「ぎゃあぁぁぁぁ!!」


銀時がサッと頭を下げた直後、頭上を刀が通り過ぎた。
はらはらと銀髪が舞う。


「危なかったな、お前たち。もう少しで接吻していたところだったぞ」

「危ねーのはテメーだ!!殺す気かバカ!他に止める方法あっただろーが!」

「バカじゃない、桂だ。しかし、結局高杉を押し倒してしまったか……。いくらモテないからって、仲間に手を出すのはどうかと思うぞ銀時」

「だから全部テメーのせいだろーがァァァ!」

「いいから早くどけ腐れ天パ!」

「ぐふっ!」


高杉から鳩尾に一発もらった銀時は、腹を抱えながらゆるゆると立ち上がる。


「まったく……お前たちはいつもいつも……シリアスが続かない奴らだ」

「いや、シリアス壊したのお前」

「何を言う。チビの時点で壊れておったわ。なぁ、チビ」

「テメーもケンカ売ってんのか」


青筋を浮かべる高杉に、桂は大げさにため息をついた。
朽ちてしまった机が無造作に転がる部屋を見渡し、そのひとつに近づいた。
埃にまみれた落書きをそっと撫でる。
桂の瞳は遠い昔を想うようだった。


「寺子屋か……懐かしいな……あの頃は俺たちも……」

「おー、みんなここにおったがか!」


アハハハー、と間抜けな声が響き、銀時たちは一斉に振り向いた。
ピクリと桂のこめかみが震える。


「坂本。貴様、せっかく俺がシリアスに戻そうとしたところを……どうしてくれるんだこの空気」

「シリアル?空気なんぞ読めんヤツが何ゆーとるんじゃ」

「貴様に言われたくないわ」

「オイ、お前それ何持ってんだ?」


銀時は坂本が抱えているものを指差した。
何かの機械のようだが、武器には見えない。
一見店で見かけるレジスターのようだが、金額を入力するキーはなく、代わりに存在感のある真っ赤なボタンがついていた。
坂本はそうだったとその機械を埃まみれの机に置く。


「この玩具、今流行っちょるらしいんじゃが、何でも十年後の未来を占えるとか」

「玩具?占い?おいおい、お前ついに頭がパーになったか」

「アッハッハッ、それはおんしの事じゃろ銀時!」

「んだとコルァ!」

「坂本……こんなものどこで手に入れてきた」

「天人の作ったもんじゃ。その辺に売って━━」


カチリ、高杉が刀に手を伸ばした。
血走った目で一気にそれを叩き斬る。
が、寸前で坂本が抱き寄せた。
高杉の目は、獲物を狙う獣。
このままでは坂本ごと斬ってしまいそうだと、桂が頃合いを見計らって刀を奪い取る。
追い打ちをかけるように、銀時が人差し指と中指で両目を突いた。


「……っ!?」

「で、お前何でそんなもん買ってきてんだよ」

「排除しようとしてる天人の物など気分はよくないな」

「まーまー、物に罪はないじゃろ。暇つぶしと思って、どうじゃ?」


坂本がニッと笑う。
銀時と桂は顔を見合わせた。
暇つぶし程度なら、とその場に座ると、高杉がゆらゆらと揺れながら凄んできた。


「ふざけるな。てめーら、それでも侍かよ。だいたい、占いなんざ女のする事だろーが」

「両目真っ赤なヤツに言われてもな。てめーはそこで目がァァァ!とか言ってのたうち回ってろ」

「天人がゴミのようだ」

「バルス!」

「てめーらまとめて叩き斬ってやらァ……あ、刀無ぇし。おいヅラ、返せ」

「ヅラじゃない、バルスだ!」

「しつけーよ。てめーだけそこで滅びてろ」


で、と気を取り直した銀時が坂本を見る。
坂本は頷き、存在感のある赤いボタン━━の横にある小さなボタンを押した。
ピコピコーン、とこの場に似つかわしくない音が響く。


「十年後、銀時の側に誰がおるか!」

「何その質問?」


ピコピコーン。
坂本の言葉に反応するように音が響き、次にガーという音とともに紙切れが出てきた。
まるでレシートみたいだな、と桂が呟く。
出てきたそれを坂本が取り、目を通す。
真剣な目をしていた。


「おい……何が書いてあんだ?」


坂本は真剣な顔つきのまま、それを銀時に渡した。
ゴクリと喉を鳴らし、銀時は視線を定める。
そこには、『眼鏡』の絵が書いてあった。


「どういう意味だァァァァ!!」


銀時は紙を引きちぎる。


「何だよ!何でメガネ!?どういうこと!?これ、どういうこと!?」

「だから、十年後お前の側にいるのはメガネなんだろう」

「だから、どういうことだよ!ええい、もう一回!十年後俺の側にいるやつは誰だ!」


ピコピコーン、ガー。
音が鳴り、紙が出てくる。
銀時は奪うように勢いよく取ると、書いてあるものを見た。
そこには『チャイナ』と今度は文字で書かれていた。


「もっと他に情報ねーのか!何、チャイナって!?メガネと関係あんの!?」

「メガネをかけたチャイナな人と一緒にいるんじゃないのか?」

「マジで!?十年後っつったら、いい歳じゃん。つまり、そういう事だよな。俺の将来の嫁さん的な」

「側にいるとしか言わんかったしの〜。そうとは限らんぜよ」

「いいや!絶対そうだ!きっとメガネをかけたセクシースリットのチャイナさんなんだよ!」


都合のいいように解釈をする銀時は、腕を組み頷く。
その様子を見ていた三人は、銀時の隣にセクシースリットのメガネチャイナを思い浮かべた。
似合わない、と誰かが呟く。


「名前は?」


高杉が問いかけた。
ピコピコーン、ガー。
出てきた紙を取ると、高杉は無言でそれを銀時に渡した。
書かれていたのは『定春』という二文字。


「誰だ定春って!!?」


銀時が叫ぶ。
桂と坂本は大口を開けて笑っていた。
高杉は顔を背け、笑いをこらえているのか肩が震えている。


「良かったの〜銀時」

「メガネをかけた定春という名のチャイナさんがお前の側にいるそうだ」

「違ェ、ぜってぇ違ぇよ!メガネとチャイナと定春って別々なんだよきっと!いや、高杉は名前は?としか聞かなかったし、もしかしてこのポンコツが定春って名前かもしれねーだろ!」


ピコピコーン、ガー。
桂が紙を取る。


「私の名前はポンコツです、だそうだ」

「何でここだけ文章!?つか、ポンコツって名前かよ!不安要素しかねーじゃん!」


銀時は頭を抱えた。
所詮は玩具。
暇つぶし程度にと思っていたが、それでもこの結果には納得できない。
銀時はポンコツを持ち上げた。


「十年後、ヅラの側にいるヤツは誰か!」


ピコピコーン、ガー。
銀時は苛立たしげに出てきた紙を取り視線を落とす。
『エリザベス』と書かれていた。


「誰だエリザベスってェェェェ!!何で俺が定春でヅラがエリザベス!?」

「おいおい、そいつ人間か?」


高杉も驚いたように呟くと、ポンコツが反応した。
出てきたのは、絵で書かれたよく分からない生き物だった。強いて言えば『ペンギンに似た何か』だ。
子どもがただの白い布を頭から被って「お化けだぞ〜」とふざけているような、やる気のない絵。


「何これ?これがエリザベス?」

「…………」

「おい、ヅラ?」


桂はじっとそれを見つめていた。
心なしか頬が赤いような気がする。
坂本が桂の顔の前で手を振ってみたが反応はない。
まあいいか、と銀時は桂から高杉へ視線を移す。


「よし、次高杉な」

「俺はいい」

「高杉か〜。十年後はきっと背も伸びちょる。希望を捨てたらいかんぜよ!」

「黙れ。いつ誰が希望捨てたと言った。つか、オイ、いいって言って……」

「高杉の十年後はどうなってんだ?」


銀時と坂本は高杉を無視すると、ポンコツに問いかける。
ピコピコーン、ガー。
出てきた紙を手に取った。
『ぶっ壊すだけだ。獣の呻きが止むまでなァ!』
なかなかの達筆で書かれていた。


「何これ、どういう意味?メガネとかチャイナも意味わかんねーけど、輪をかけてわかんねーよ。おい、高杉。どういう意味だこりゃ」

「俺が知るかよ」

「お前、中二病こじらせたんじゃねーだろうな」

「誰が中二病だ」

「背が伸びずにグレてしもうたか」

「そればっかだな!叩き斬……あ、刀ねーんだった。おい、ヅラいい加減……」


高杉が振り返るも、桂はいまだにペンギンに似た何かを見つめている。
一体あれのどこに魅力を感じているのだろうか。


「じゃ、次はわしがやるぜよ」

「しかしコレ、本当に十年後を占ってんのか?つか、これ占い?」


どれも結局意味のわからないものばかり。
銀時が眉をひそめるのと、坂本がボタンを押したのは同時だった。
存在感はあったものの、触れる事のなかった真っ赤なボタン。


「あ、間違えた。アッハッハッ!」

「は?間違えた?」


嫌な予感がする。
チン、という音とともにレジの現金が収納されてる場所に当たる部分が開いた。
しかし、もちろん現金など入ってはいない。
入っているのは一枚の紙切れ。
『十年後の未来?侍なんて滅んでるんじゃない?つか滅べばいい。バルス!』
気づいた時はもう遅かった。
ポンコツは激しい光を放つと、勢いよく爆発した。


****


瓦礫を押しのけ、むくりと起き上がる。
屋根も吹っ飛んでしまったようで、寺子屋は見るも無惨な姿になってしまった。
銀時は隣で笑いながら瓦礫をどける坂本の胸ぐらを掴んだ。


「おい、もじゃもじゃ」

「もじゃもじゃ?誰の事ゆーとるんじゃ」

「テメーしかいねーだろォォォ!!」

「おんしも大分もじゃっちょるぜよ」

「え!?うそ、マジで?」


銀時が慌てて自身の頭に触れていると、ボコボコと瓦礫の山が崩れた。
這い上がってきたのは桂と高杉。


「おい、もじゃもじゃ」


高杉は目を光らせながら銀時の胸ぐらを掴む。


「え、ちょっと高杉くーん?もじゃもじゃはあっち。全ての元凶であるもじゃもじゃはあっち!」

「うるせーよ。あっちもこっちも、もじゃもじゃは同じだろ」

「同じじゃねーよ!」


ギャーギャーとケンカを始めたふたり。
桂は服についた埃を払うと、ぐるりと辺りを見渡した。
天人たちが襲撃してくる様子はない。


「どうやらあの程度の爆発で俺たちを殺せると思ったらしいな。俺たち以外のヤツらは皆別ルートから攻める手はずでここにはいないし、被害も拠点が潰されただけで済んだ」

「アッハッハッ!また新しい場所探さんといかんのー」

「アッハッハじゃねーよ!テメーが変なもん買ってくるから移動しなきゃなんなくなったんだぞ!」

「昔のことは忘れたぜよ」

「ざけんなァァァ!だいたい、だいたい……お前何買ってきたんだっけ?つか、俺たち何してたっけ?」


銀時が首を捻る。
四人は顔を見合わせた。


「何か……未来の話とかしてなかったか。外国人の名前とか言ってたような」

「俺、メガネに呪われた気がする」

「何だよ、メガネって。つか、テメー俺の悪口言ってなかったか。あれ、俺の刀どこいった?」

「わしはほんとに何も覚えちょらん……。一番損した気分ぜよ」


どうやら、今の爆発で記憶が飛んでしまったらしい。
大事な事は何ひとつ忘れてはいないため、まあいいかと銀時は呟いた。
未来の話。
そんな話をしていた気がする。
それだけで、なぜか心が満たされるような不思議な気分だ。


「行くぞ、銀時」


高杉が呼ぶ。
銀時は「ああ」と小さく答えると、仲間の元へと歩んでいった。



ーーーー
ゆいちさんお誕生日おめでとうございます!
こんなん送りつけてすみません!
しかも長ぇーよ!グダグダだよ!
今回はギャグにしようと思いまして……勢いだけで書いたの丸わかりな感じですね……!
完結篇意識したものですが、ネタバレは含んでない、と思います……!
もっさんに悪戦苦闘です……!方言は大目に見てやってください……!
あと……銀高ですかね、これ……。
一応絡んでますが、果たして銀高って言っていいものか……。
多分、いえ、きっと想像してたのとだいぶ違うと思います……!
それは本当にすみません!
グダグダのまとまりのない感じですが、愛は込めました!私個人も楽しんで書いたものなので、生暖かい目で見てくださると嬉しいです……。
言い訳がましい後書きですみません!
ゆいちさん大好きです!
改めまして、お誕生日おめでとうございます!!

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